溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「……家出、だ」
「へっ? 家出……?」
犬って家出するの? 百歩譲ってそういう習性があったとしても、あんな高層マンションの最上階から逃げ出すなんて無理だと思うんだけど。
「たぶん、忙しくてあまり構ってやれない俺に、不満があったんだろう」
「そ……そうなんだ」
甲斐の自嘲があまりに寂しそうで、それ以上突っ込めなくなってしまった。どうやら前のペットを溺愛していたっていうのは本当みたい。
なんとか彼を励まそうと、私は言葉を探した。
「でもよかったじゃん。今度のペットは食べ物さえ与えとけば言うこと聞く単純なヤツだから!」
自分で言ってあはは、と笑うのはなんとなくむなしい図だけど、甲斐はふっと息を漏らしてようやく笑ってくれた。
「コーヒー淹れる芸もできるしな」
「そうそう!」
「英語は怪しいが、日本語ならなんとか通じるし」
「……うぐ。日本語も“なんとか”なの?」
ぐさっと胸にダメージを負いうずくまった私にクスクス笑みをこぼして、甲斐が「それに」と続けた。