溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
でも、今のところ甲斐に特定の彼女がいる雰囲気は感じられない。まぁ、いたら私のことなんか飼うわけもないだろうけど。
「なんだよ、人の顔じろじろ見て」
ぼうっとしていた私は、運転席から降ってきた無愛想な声ではっと我に返る。
「……なっ、なんでもない!」
うう、隣にいる人のラブシーンなんか妄想するものじゃないな。
さっきまでは意識してなかったのに、甲斐の低い声やハンドルを握る骨ばった手に、必要以上に“男の人”を感じてしまって、落ち着かない。
もしもこれから、昨夜や今朝のように“癒し”を求められて抱きしめられたりすることがあったら、耐えられるかな……。
過剰なドキドキを持て余すこと数十分。甲斐は目的地らしき高台で車を路肩に停めた。
車外に降りると、眼下にはまだ真新しい、きれいな住宅地や低層のマンション、公園などが建ち並んでいる。道路も、舗装されたばかりのようだ。
しかし、私たち以外に人の気配はなかった。
「……ここは?」
爽やかな秋の風に揺れる髪を耳に掛けながら、隣に立つ甲斐を見上げる。