溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
甲斐はちらっと私を一瞥し、また前方に向き直ると優しく問いかけてくる。
「誘い文句……なわけねえな。どうした、急に感傷的になって」
「いや、別に深い意味はないんだけど……遠足が終わっちゃう時みたいな、ああこれから現実に戻るのか……っていうブルーな気持ちに襲われてるみたい」
そう分析しつつも、自分で自分が不思議だった。
だって、素敵な服を着て、髪型やメイクも変えてもらって、さらには美味しいものまで食べさせてもらったくせに、何をそんなに憂鬱になることがあるんだろう。
「帰ると言ったって、前の家じゃねえだろ? ……それとも、どこか泊まっていくか?」
落ち着いた低音ボイスに尋ねられ、どっきんと鼓動が脈打つ。
誘い文句……なわけないってば。おそらくペットホテルに連れて行かれるオチだ。
「い、いいよ別に。早く帰ろう?」
「いいのか? ……まあ、帰ったら存分に可愛がってやるけどな」
「いやいや、それも結構ですっ!」
「遠慮するな。俺の前ではわがままでいいって言っただろ?」
運転席から伸びてきた手が、頭の上にぽんと乗せられる。