溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「……平気だよ。優しい人だもん」
そう口にした瞬間、隣から甲斐の視線を感じた。たぶん、自分の話だと気づいたうえで驚いているのだと思う。
自分でも理由はわからないけれど、甲斐のことを悪く言われるのが嫌で、咄嗟に庇ってしまった。
……変なの。昨日は、理一を悪く言う甲斐の方に、食って掛かってたはずなのにな。
理一はしばらく黙りこくった後、自嘲気味に話し出す。
『……マジなのか。やっぱ、俺がこんなだから、愛想尽きた?』
寂しげな声にズキ、と胸が痛んで、唇を噛む。
「わかんない。……でも、今までみたいに素直に理一の夢を応援するのは、たぶん、もう無理……」
そこまで決定的なことを言ってしまうと、目頭が熱くなった。
上京したばかりの頃のように、彼を支えることが一番の喜びだった自分を維持できなかったことに悔しさや申し訳なさもある。でもそれは理一のせいだって、彼を責める気持ちも膨らんでいて、心がぐちゃぐちゃだ。
『まれ……』
理一があからさまに落胆するのが声で分かった。そのことでさらに涙腺を刺激された私は、ず、と鼻を啜る。
ふと気づけば、車はいつの間にかマンションの地下駐車場に到着していて、シートベルトを外した甲斐が、私の電話が終わるのを待ってくれている。