溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「……そろそろ、いい?」
『待って。……あのさ』
理一がすう、と息を吸う音がした。何か大切なことを言おうとしているような、張りつめた空気が伝わってくる。
『俺らのバンド、絶対デビューするから……それが決まったら、迎えに行ってもいい?』
強い決意の滲んだ声。けれどその台詞は、今まで何度も聞かされてきて、そして裏切られてきたものだ。
そんな、いつ来るかもわからない日を期待するのはもういや。
「でも、私……」
『……頼むよ。御曹司だか何だかしらないけど、人の彼女かっさらって“ペット”にしてるなんて、許せないんだ。だけど、今の俺じゃまれを迎えに行く権利がないから……』
「理一……」
語気を強め、初めて感情を露わにした理一の言葉に、胸が締め付けられる。
いつも自分の夢を追うことが先決で自由に見えた彼だけど、きっと彼なりに私を想ってくれていたんだ。
でも、こんな状況では、嬉しさよりもやりきれなさの方が強いよ。
『言いたかったのは、それだけ。ごめんな、困らせてばっかで』
「……ううん」
『今度連絡するときは、夢が叶った時だから。……それまで、ばいばい』
無理やり明るさを装ったような別れの挨拶が終わると、私が何も言わないうちに電話は切れてしまった。