溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
でででも、決して私たちはそういう関係ではない。
私はペットで、彼は飼い主。何度も自分にそう言い聞かせて心の平穏を取り戻そうとしているさなか、頬に触れていた手に少し力が入り、視界が甲斐のどアップで塞がれる。
彼の言葉通り、今の私には甲斐しか見えない。
……って。ち、近すぎ――!
「……んっ」
動揺している間に、唇にやわらかい熱が触れた。
目の前には、甲斐の伏せられた長い睫毛。鼻腔をくすぐる、スパイシーな香り。
こ、これって……キス――!?
それを理解した瞬間、全身が沸騰したかのように熱くなった。
昨日、鼻の頭にかるーくキスされた時は悪戯みたいなものだと思えたけど、まさか唇にされるだなんて……。
混乱で頭がいっぱいになるなか、数秒重なった唇がゆっくり離れていく。
でも甲斐の顔はまだほんの五センチ程度の場所にあって、無意識に今まで重なっていた彼の唇を見つめてしまうと、ひゅっと口角が上がるのがわかった。
「……唇の相性も、悪くないな」
「な、なんで、キス、なんか」
「言っただろ、前のペットともしてたって。……嫌だったか?」
嫌……ではなかったけど。ってなんでよ! 恋人でもない人とキスして嫌じゃないって、どういう心境!?
私はいつからそんなふしだらな女に……!
自分に自分で突っ込みを入れてしまうけど、嫌じゃなかったというのは事実だ。
私も甲斐のペットであることが板についてきて、“これくらいのスキンシップなら可”っていう思考になっちゃったのだろうか。
だけどそんな理屈なんだかおかしいし、なんて伝えたらいいのかもわからない。
私はない頭を捻って、なんとか絞り出した返事をする。