Powder  Snow
 屋上から玄関までの階段を下りていると、待っていたように啓一が立っていた。いつもと同じ、絵に描いたような美少年のまま。
 美紀は啓一を睨みつけた。
「なんでいるの?」
「ちゃんとできたじゃん、別れ話」
「こっちが訊いてるの。なんでいるわけ?見張ってたの?」
「まさか。今日も担任に呼ばれてね。部活が終わったら遠矢とご飯でも行こうって話してたから、体育館覗きにきたんだよ」
「で、私たちを見つけて嫌味を言いに待ってたわけね」
「嫌味だなんてそんなっ」
 啓一は悪戯に笑った。
「もう関係ないでしょ。あなたの望みどおり、別れてきたわよ」
「そう怒るなって。随分嫌われちゃったな」
「あなたねぇ、散々あたしのことバカにしたくせに、何を今更…」
「ぐちゃぐちゃ話してる時間ないんだ。もう遠矢が下りてくるかもしれないし」
 美紀は再び啓一を睨みつけた。
「頑張ったご褒美に、一個だけいいことを教えてあげようと思って」
「いいこと?」
「恋愛っていうのはね、切ないものなんだよ」
「………だから?」
 美紀が憤る姿が面白いのか、啓一はまた、悪戯に笑う。
 美紀は「これ以上付き合いきれない」と啓一の横を通り過ぎようとしたとき、啓一は笑いながら口を開いた。
「千秋ちゃんはね、他の男が好きなんだよ」
「え?」
「恋愛は切ないでしょ?」
 啓一はにっこりと微笑むと「じゃ、お先」と、美紀の横を通った。
 混乱する美紀は、ひとりその場に残された。

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