Powder Snow
中高一貫の私立学校に合格した遠矢は、ドキドキと胸を弾ませながらクラス割の表を見上げた。登校したときには既に人だかりになっていたが、遠矢は身長も高く、目も良かったので、遠くから自分の名前を探した。新しい生活の始まりに、胸の高鳴りは止まらなかった。
名前はすぐに見つかった。
A組の真ん中あたりに『瀬名遠矢』の文字があった。
知っている名前はなかった。受験して入る学校なので、小学生からの友人は皆無だった。少し心細さはあったが、自分で決めたことなので覚悟はしていた。
遠矢は一先ず教室へ移動した。教室に行けば友達を作れるかもしれないと思ったのだ。
教室に入ると、ザワザワと騒がしい雰囲気の中、一際目立っている人間を見つけた。
既に席について何か本を読んでいるその少年は、遠目からでもキレイな顔をしているのがわかった。サラサラの髪に、しゅっと通った鼻筋。女の子のような白い肌で、少女マンガから飛び出したような美少年だった。
遠矢はその少年を気にしつつ、自分の席にカバンを置いた。
きっと仲良くはなれないだろうと思って、その日は終わったのだ。
それから数日して、入学後、最初の席替えが行われた。
席替えはくじ引きで決められ、男女もぐちゃぐちゃだった。
遠矢は箱の中からくじを引くと、紙をめくって番号を見た。番号は36番。窓際の、一番後ろの席だった。
その席は特等席で、複数の男子が「いいなー」と寄ってきた。遠矢はそのくじを見せびらかすと、自慢げに「お先に失礼」と手刀を切っておどけた。既にいい席をとられてしまったクラスメートたちは落胆し、くじを引く列に並んだ。
ウキウキで自分の席に座ると、前の席には女子が座っていた。席はいい場所だが、話せるひとがいないとつまらないなとまだ来ない隣の席の人間を待っていると、どさっとカバンを置く音がした。遠矢はすぐに横を向いた。
「―――隣みたいだね、宜しく」
隣に座ってきたのは、あの美少年だった。
そのときの遠矢は、その美少年の名前を覚えていなかった。一応チェックはしたのだが、入学して数日、一度も言葉を交わさなかったので忘れてしまったのだ。
遠矢が戸惑いを隠せないでいると、その美少年はふっと片口を持ち上げた。
「春名。春名啓一」
「あ、ああ。えっと、俺は―…」
「瀬名遠矢」
「………」
遠矢がきょとんとした顔をしていると、啓一はクスリと笑って。
「なんとなく目に留まったから、覚えてた」
キレイな顔で、どこかトゲのある口調だった。
それでも啓一は笑顔を絶やさなくて、本心はどこにあるのかわからなかった。
ただ、授業中、休み時間、教室の移動など、遠矢がひとりになるとやって来ては何かと声をかけてきたので、遠矢を気に入ったのは確かだった。遠矢も悪い気はせず、しだいに会話は増えていった。
しかも恐ろしいことに、中学1年のときから高校3年の今ままで、ずっと同じクラスだったのだ。これを腐れ縁というのだと、遠矢は思った。
『遠矢』『啓一』と呼び合うようになった日はいつだったか、もう遠い昔のように遠矢は感じた。
名前はすぐに見つかった。
A組の真ん中あたりに『瀬名遠矢』の文字があった。
知っている名前はなかった。受験して入る学校なので、小学生からの友人は皆無だった。少し心細さはあったが、自分で決めたことなので覚悟はしていた。
遠矢は一先ず教室へ移動した。教室に行けば友達を作れるかもしれないと思ったのだ。
教室に入ると、ザワザワと騒がしい雰囲気の中、一際目立っている人間を見つけた。
既に席について何か本を読んでいるその少年は、遠目からでもキレイな顔をしているのがわかった。サラサラの髪に、しゅっと通った鼻筋。女の子のような白い肌で、少女マンガから飛び出したような美少年だった。
遠矢はその少年を気にしつつ、自分の席にカバンを置いた。
きっと仲良くはなれないだろうと思って、その日は終わったのだ。
それから数日して、入学後、最初の席替えが行われた。
席替えはくじ引きで決められ、男女もぐちゃぐちゃだった。
遠矢は箱の中からくじを引くと、紙をめくって番号を見た。番号は36番。窓際の、一番後ろの席だった。
その席は特等席で、複数の男子が「いいなー」と寄ってきた。遠矢はそのくじを見せびらかすと、自慢げに「お先に失礼」と手刀を切っておどけた。既にいい席をとられてしまったクラスメートたちは落胆し、くじを引く列に並んだ。
ウキウキで自分の席に座ると、前の席には女子が座っていた。席はいい場所だが、話せるひとがいないとつまらないなとまだ来ない隣の席の人間を待っていると、どさっとカバンを置く音がした。遠矢はすぐに横を向いた。
「―――隣みたいだね、宜しく」
隣に座ってきたのは、あの美少年だった。
そのときの遠矢は、その美少年の名前を覚えていなかった。一応チェックはしたのだが、入学して数日、一度も言葉を交わさなかったので忘れてしまったのだ。
遠矢が戸惑いを隠せないでいると、その美少年はふっと片口を持ち上げた。
「春名。春名啓一」
「あ、ああ。えっと、俺は―…」
「瀬名遠矢」
「………」
遠矢がきょとんとした顔をしていると、啓一はクスリと笑って。
「なんとなく目に留まったから、覚えてた」
キレイな顔で、どこかトゲのある口調だった。
それでも啓一は笑顔を絶やさなくて、本心はどこにあるのかわからなかった。
ただ、授業中、休み時間、教室の移動など、遠矢がひとりになるとやって来ては何かと声をかけてきたので、遠矢を気に入ったのは確かだった。遠矢も悪い気はせず、しだいに会話は増えていった。
しかも恐ろしいことに、中学1年のときから高校3年の今ままで、ずっと同じクラスだったのだ。これを腐れ縁というのだと、遠矢は思った。
『遠矢』『啓一』と呼び合うようになった日はいつだったか、もう遠い昔のように遠矢は感じた。