ボクはキミの流星群
「懐かしいなぁ」

公園に着くと菊池家全員が声を揃えてそう言った。

そして、わたしがいつも使っている裏山へ繋がる近道をただひたすらに登り続けた。

午前中に大雨が降っていたせいで、地面の土はぐちゃぐちゃで少し臭かった。

その環境は十四年前を想像させるもので、ブルブルと鳥肌がたった。

「あの時もこの道を通ったんだっけ」

菊池はそう呟いてからわたしの方に顔を向けた。

わたしは首を傾げてみせた。

だって十四年前のことは記憶にないんだもの。

「不思議だな。なんで綺麗に全部忘れてしまったんだろうね」

菊池はうーんと悩んでいるように眉をひそめた。

わたしもそう思ってるよ。なんで忘れちゃったんだろうって。

少しくらいは記憶に残っていてもいいはずなのに、何ひとつと残っていないのだ。

わたしの記憶に残っているのは、おばあちゃんと呼んでいた知らない誰かとの日々だけ。あとは最近のこと。

お父さんとかお母さんとか、あの災害のことなんてひとつも思い出せない。

なんでなんだろうね……

「ちょっと!星夜ちゃん見て!」

いきなり声をあげたのはお母さんだった。

かなり興奮している様子で、さっきの落ち着いた姿はどこかにいっていた。

そんなお母さんの指さす方に目を向けると、今までに見たことのないような美しい星空が広がっていた。

「きれい……」

四人揃ってそう呟き、四人揃って星空を仰いだ。

夏の空は思うよりも綺麗なもので、わたしたちの心を一瞬にして和ませてくれる。

「あの時と……一緒だ」

菊池は瞳に星空を映らせて小さく唇を動かした。

「あの時もこんなに綺麗だったの?」
「うん、とても綺麗だったよ。だって俺、あれから星空にハマったんだよ?本当に感動しちゃったんだよ」

菊池は眉を下げてふわりと笑った。

━━ガサ

その時、すぐ隣に立っている木が少し揺れた気がした。

なにかいるのかな?動物?それとも人間?

━━カサカサ

次は草むらが音をたて出した。

いったいなに?誰?

わたしは気になって、木の音のする方へ恐る恐る足を歩ませた。

「あのー……誰かいるんですか?」

一応声をかけてみる。

ただ好奇心が湧いてきただけで、声をかけた意味は特にない。

━━ガサ

「わぁ!」

すると、草むらの中から少し歳をとった夫婦が姿を現した。

わたしは驚きを隠せず、大声を出してその場に尻もちをついてしまった。

なぜか夫婦揃って悲しそうな表情を浮かべていたのだ。

「星夜ちゃん……!」

菊池のお母さんは声を震えさせて、今にも泣きそうな顔でそう言った。

「セイヤ……?」
「嘘でしょ……」

すると、目の前に立っている夫婦も声を震えさせてわたしを見つめた。

その瞬間にわたしは察した。


この人たちがお父さんとお母さんなんだって。
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