魔法あります
たまやと魔法
遠くの入道雲を眺めながら坂道を登る。今カメラが手元にあったら、さぞ素晴らしい夏の写真が撮れただろうなぁと、カメラの心得なんてないくせに思ってしまうほど立派な雲だ。
あまりの立派さに、休み時間に窓の外を眺めて思わず「入道雲があるぞ」と言ったら、「積乱雲だろ。入道雲って子供みたいな言い方だな」と橋本に笑われた。たぶん、松野さんの前だったからかっこつけたかったんだろう。
「あーソフトクリーム食いてぇー」
青空にくっくりと浮かぶ白い入道雲を見ると、いつもソフトクリームを思い浮かべてしまう。
でも、今向かっているところにソフトクリームはない。食べるときに顎を激しく消耗するアイスバーならあるけれど。
昨日のことを思い出すと、少し足が重い。
財布を忘れたことではない。
そのあとの、タマさんの言葉だ。
「魔法を売る手伝いをしてほしいのよ」
まるで花かお菓子を売るような気軽さで、「魔法を売る」という言葉をタマさんは口にした。
財布を忘れて払えなかったラムネ代をツケておくかわりに、店の手伝いをしてほしいとタマさんは言った。何となくその時点でおかしいんじゃないかという気はしていたのだが、「魔法」という言葉は俺が予想していたあらゆる事態の斜め上をいっている。
昨日払うことができなかったラムネの代金は、払わなければならない。
だけど、そんなおかしなことに付き合うわけにはいかない。
ミステリアスな妙齢の女性だと思っていたタマさんは、ただの不思議ちゃんだったのだろうか。いや、でも、俺をからかっただけなのかもしれない。俺がこうして真剣に頭を悩ませながら店にやってきたところを笑ってやろうというふうに考えている可能性もある。
ぐるぐると考えているうちに、坂を登りきって「たまや」の前に到着していた。
「あ、来た来た。司くん、真面目だねぇ」
どうか昨日の言葉が冗談であってくれ――そんなことを祈りながら店に辿り着いた俺を、にこやかにタマさんが迎える。タマさんは手にしていた紙をペタリとガラス戸に貼ったのだが、その紙に書かれた文字を見て、ますます昨日の言葉が冗談なのか本気なのかわからなくなった。
「魔法ありますって……」
「『魔法はじめました』と迷ったんだけどねぇ」
まるで「冷やし中華はじめました」とでもいうような軽さだ。そんなに軽く扱うほど、魔法はこの世界に浸透していないだろうとツッコミたくなる。
「あの、昨日はすみませんでした。これ、ラムネの代金です」
「百五十円、確かにいただきました」
「それじゃあ」
「待って待って! なんで帰るの! 何か食べていきなよ。あと、魔法の説明もしたいし」
最後の言葉さえなければ、迷うことなく店内に入ることができるのに。
でも、誘いを振り切ってもう一度坂道を下るには、夏空が眩しすぎた。
「……魔法って、ソフトクリーム出せたりするんですか?」
「ソフトクリーム食べたいの? 入道雲見てソフトクリーム食べたくなるなんて、司くん可愛いねぇ。でも生憎うちにあるのはアイスバーだけだよ」
「で、魔法で出せたりしないんですか?」
「魔法っていってもそういうのじゃないのよ。そもそも魔法を使うのはあたしじゃないし」
「じゃあ誰が使うっていうんですか」
「司くん」
もー何をわかりきったこと聞いてくるのよーみたいな笑顔で、タマさんは言う。おまけに当たり前のようにアイスを差し出してくる。しかも真っ白、ミルク味だ。
「俺、ミルクはあんまり好きじゃないんですけど」
「それ、ただのミルクじゃないよ。刻んだパイン入り。試作品だからお代は結構よ。これ食べながら聞いてちょうだい」
促されるままアイスを受け取って、店の前のベンチに腰掛けてしまった。にこやかな誘いを断るのは、なかなかに難しい。
知り合いに宗教の勧誘にあうのは嫌よーと母さんが嘆いていたが、こういう感じなのだろうか。
「さっき魔法でソフトクリームを出せないかって聞いてきたけど、うちが扱うのはそういう魔法じゃないのよ。この世界には魔法使いって人たちがいて、そういう人たちならしかるべき材料を揃えて条件を整えてこの場にソフトクリームを生み出すことも可能なんだろうけど……。うちがやるのはそういうものじゃなくて、この町にある魔法とそれを必要とする人との橋渡し。その役目を司くんにやってもらいたいのよ」
何だか、とんでもない話がはじまった。真剣に耳を傾けてはいけない類の話ではないだろうか。
あまりにも突拍子もないことに遭遇すると、人は得てして思考停止に陥ってしまうものだが、黙って流されてはいけない。黙って流されると、壷や水晶を買わされるに違いない。
宗教の勧誘をされたとき、母さんは何て答えると言っていただろうか。
アイスを齧りながら考える。
「あの、俺、仏教徒なんで」
確か、こうだ。
勧誘してくるのは新興宗教がほとんどだから、熱心な仏教徒であることを伝えるのが効果的だと母さんは言っていた。
ダメ押しに般若心経でも唱えようかと思ったが、そういえばまともに唱えたことがなかったことを思い出した。そもそも仏教徒なのは本当だが、うちの宗派が般若心経を唱えるかも定かではない。
「……司くんって真面目できちんと人の話を聞ける子だって思ってたんだけど」
「え?」
「大丈夫? 暑さでやられちゃったの?」
「……大丈夫です」
タマさんは完全に可哀想な子を見るような目をしていた。
確かに、般若心経を思い出そうとして木魚のリズムしか浮かばず、挙句の果てに一休さんがポクポクを始めた俺の頭は可哀想な感じかもしれない。しかも俺の頭の中にいるのは、いつまで経ってもチーンと言わないダメ一休だ。
「魔法って聞いても、胡散臭いって思っちゃうよね。だって司くんたち若い子は、科学の子だもんねぇ」
遠くから響くような寂しげな声音で、タマさんは言った。笑っているけれど、その顔も心なしか自嘲じみている。
よくわからないことに巻き込まれたくはないけれど、こんな顔をさせたいわけじゃない。
こういうとき、自分の不器用さが嫌になる。
「あの……話だけなら聞いてみたいです。実際に手伝うかはわかりませんけど」
「ありがとう」
不器用なりに紡いだ言葉は、タマさんを少し笑顔にした。
その笑顔を見て、器用に、大人に、なりたいなぁと思った。気の利いたことが言える、スマートな大人の男に。
「この町にも昔、魔法使いがいてね、その人が残した魔法がまだ残っているの。でも、知っている人は随分減ってしまった。知っている人がいないということは、あったとしてもないのと同じ。そうして本当にいつかなくなってしまうの」
俺がアイスを食べ終わるのを待って、再びタマさんは話しはじめた。
やっぱり、どこかで胡散臭いと思ってしまう。
でも、おとぎ話だと思えば聞けなくもない。むしろ小さな頃は、こういう夢のある話が好きだったのだから。
剣と魔法と冒険と――そんな物語が大好きだった。
そういえば、魔法使いに憧れていたこともあったんだ。
魔法で悪者と戦ったり、傷ついた人を癒したり、空を飛んだり……そんなことを想像するのはすごく楽しかった。
「魔法とそれを必要とする人との橋渡しって、具体的にはどういうことをすることなんですか?」
小さな頃のことを思い出して、かつてこの町にいた魔法使いが残したという魔法に少し興味がわいた。
そういえば、いつの頃からかサンタクロースや妖精などの存在を信じなくなった。魔法だってそうだ。何となく、成長するにつれてそういったものを信じることができなくなった。あるわけないと、当たり前のように思うようになっていったのだ。
けれど俺は、そういったものが「ない」と断言するだけの根拠を持っていない。
それなら、「あるかもしれない」と思うことは可能だし、そっちのほうがきっと楽しいだろう。
そんなことを考えはじめたら、自然とワクワクした気持ちになってきた。
そんな俺の様子に気づいたのか、タマさんはとても嬉しそうにしている。
「その、昔いた魔法使いっていうのは、この店の主だったの。色々と縁があって、今はあたしが引き継いでいるんだけどね」
「その人は今は?」
「随分昔に亡くなったよ。……今じゃあの人のことを覚えてるのはあたしくらいかなぁ」
かつての店の主のことを思い出したのか、タマさんは遠くを見つめるような目をして、ふっと笑った。
それは大切なものを思い出すときの目だ。
その人といた日々は、タマさんにとってきっとあたたかいものだったのだろう。
「その人はこの店で雑貨を売りながら、魔法を必要とする人へ提供していたの。たとえば、庭の植物に元気がないっていうお客さんが来たら、植物に優しい風を吹かせたり、大事なものを失くして困っているお客さんが来たら、失くしものが辿った道筋が光って見える虫メガネを用意してあげたり……そんなふうにしてお客さんのために作ってきた魔法がまだこの町にはたくさん残ってる。道具だって、雑貨に紛れてこの店にあるし」
本当にまるでおとぎ話だ。
この町が舞台の、優しいおとぎ話。
想像してみた。魔法使いが起こした風が元気をなくした植物を癒す様子を。虫メガネを覗いて光の道を辿って失くしものを見つける人の姿を。
いいなぁと思った。
ささやかな魔法がある世界は、柔らかくてあたたかい。
「肝心の呪文も道具の役割もあたしは知らないんだけどね。でも、新しい呪文と道具の役割を考えられたら、必要とする人たちに届けることができる。だから、それを司くんにやってもらいたいの」
「そんなこと、俺にできるんですか?」
「司くんはね、才能があるの。ううん、縁があるって言ったほうがいいかな」
「縁?」
「実はこの店、縁がないと来られないの。必要とする人だけが訪れることができる、そういうふうになってるのよ」
あまりの立派さに、休み時間に窓の外を眺めて思わず「入道雲があるぞ」と言ったら、「積乱雲だろ。入道雲って子供みたいな言い方だな」と橋本に笑われた。たぶん、松野さんの前だったからかっこつけたかったんだろう。
「あーソフトクリーム食いてぇー」
青空にくっくりと浮かぶ白い入道雲を見ると、いつもソフトクリームを思い浮かべてしまう。
でも、今向かっているところにソフトクリームはない。食べるときに顎を激しく消耗するアイスバーならあるけれど。
昨日のことを思い出すと、少し足が重い。
財布を忘れたことではない。
そのあとの、タマさんの言葉だ。
「魔法を売る手伝いをしてほしいのよ」
まるで花かお菓子を売るような気軽さで、「魔法を売る」という言葉をタマさんは口にした。
財布を忘れて払えなかったラムネ代をツケておくかわりに、店の手伝いをしてほしいとタマさんは言った。何となくその時点でおかしいんじゃないかという気はしていたのだが、「魔法」という言葉は俺が予想していたあらゆる事態の斜め上をいっている。
昨日払うことができなかったラムネの代金は、払わなければならない。
だけど、そんなおかしなことに付き合うわけにはいかない。
ミステリアスな妙齢の女性だと思っていたタマさんは、ただの不思議ちゃんだったのだろうか。いや、でも、俺をからかっただけなのかもしれない。俺がこうして真剣に頭を悩ませながら店にやってきたところを笑ってやろうというふうに考えている可能性もある。
ぐるぐると考えているうちに、坂を登りきって「たまや」の前に到着していた。
「あ、来た来た。司くん、真面目だねぇ」
どうか昨日の言葉が冗談であってくれ――そんなことを祈りながら店に辿り着いた俺を、にこやかにタマさんが迎える。タマさんは手にしていた紙をペタリとガラス戸に貼ったのだが、その紙に書かれた文字を見て、ますます昨日の言葉が冗談なのか本気なのかわからなくなった。
「魔法ありますって……」
「『魔法はじめました』と迷ったんだけどねぇ」
まるで「冷やし中華はじめました」とでもいうような軽さだ。そんなに軽く扱うほど、魔法はこの世界に浸透していないだろうとツッコミたくなる。
「あの、昨日はすみませんでした。これ、ラムネの代金です」
「百五十円、確かにいただきました」
「それじゃあ」
「待って待って! なんで帰るの! 何か食べていきなよ。あと、魔法の説明もしたいし」
最後の言葉さえなければ、迷うことなく店内に入ることができるのに。
でも、誘いを振り切ってもう一度坂道を下るには、夏空が眩しすぎた。
「……魔法って、ソフトクリーム出せたりするんですか?」
「ソフトクリーム食べたいの? 入道雲見てソフトクリーム食べたくなるなんて、司くん可愛いねぇ。でも生憎うちにあるのはアイスバーだけだよ」
「で、魔法で出せたりしないんですか?」
「魔法っていってもそういうのじゃないのよ。そもそも魔法を使うのはあたしじゃないし」
「じゃあ誰が使うっていうんですか」
「司くん」
もー何をわかりきったこと聞いてくるのよーみたいな笑顔で、タマさんは言う。おまけに当たり前のようにアイスを差し出してくる。しかも真っ白、ミルク味だ。
「俺、ミルクはあんまり好きじゃないんですけど」
「それ、ただのミルクじゃないよ。刻んだパイン入り。試作品だからお代は結構よ。これ食べながら聞いてちょうだい」
促されるままアイスを受け取って、店の前のベンチに腰掛けてしまった。にこやかな誘いを断るのは、なかなかに難しい。
知り合いに宗教の勧誘にあうのは嫌よーと母さんが嘆いていたが、こういう感じなのだろうか。
「さっき魔法でソフトクリームを出せないかって聞いてきたけど、うちが扱うのはそういう魔法じゃないのよ。この世界には魔法使いって人たちがいて、そういう人たちならしかるべき材料を揃えて条件を整えてこの場にソフトクリームを生み出すことも可能なんだろうけど……。うちがやるのはそういうものじゃなくて、この町にある魔法とそれを必要とする人との橋渡し。その役目を司くんにやってもらいたいのよ」
何だか、とんでもない話がはじまった。真剣に耳を傾けてはいけない類の話ではないだろうか。
あまりにも突拍子もないことに遭遇すると、人は得てして思考停止に陥ってしまうものだが、黙って流されてはいけない。黙って流されると、壷や水晶を買わされるに違いない。
宗教の勧誘をされたとき、母さんは何て答えると言っていただろうか。
アイスを齧りながら考える。
「あの、俺、仏教徒なんで」
確か、こうだ。
勧誘してくるのは新興宗教がほとんどだから、熱心な仏教徒であることを伝えるのが効果的だと母さんは言っていた。
ダメ押しに般若心経でも唱えようかと思ったが、そういえばまともに唱えたことがなかったことを思い出した。そもそも仏教徒なのは本当だが、うちの宗派が般若心経を唱えるかも定かではない。
「……司くんって真面目できちんと人の話を聞ける子だって思ってたんだけど」
「え?」
「大丈夫? 暑さでやられちゃったの?」
「……大丈夫です」
タマさんは完全に可哀想な子を見るような目をしていた。
確かに、般若心経を思い出そうとして木魚のリズムしか浮かばず、挙句の果てに一休さんがポクポクを始めた俺の頭は可哀想な感じかもしれない。しかも俺の頭の中にいるのは、いつまで経ってもチーンと言わないダメ一休だ。
「魔法って聞いても、胡散臭いって思っちゃうよね。だって司くんたち若い子は、科学の子だもんねぇ」
遠くから響くような寂しげな声音で、タマさんは言った。笑っているけれど、その顔も心なしか自嘲じみている。
よくわからないことに巻き込まれたくはないけれど、こんな顔をさせたいわけじゃない。
こういうとき、自分の不器用さが嫌になる。
「あの……話だけなら聞いてみたいです。実際に手伝うかはわかりませんけど」
「ありがとう」
不器用なりに紡いだ言葉は、タマさんを少し笑顔にした。
その笑顔を見て、器用に、大人に、なりたいなぁと思った。気の利いたことが言える、スマートな大人の男に。
「この町にも昔、魔法使いがいてね、その人が残した魔法がまだ残っているの。でも、知っている人は随分減ってしまった。知っている人がいないということは、あったとしてもないのと同じ。そうして本当にいつかなくなってしまうの」
俺がアイスを食べ終わるのを待って、再びタマさんは話しはじめた。
やっぱり、どこかで胡散臭いと思ってしまう。
でも、おとぎ話だと思えば聞けなくもない。むしろ小さな頃は、こういう夢のある話が好きだったのだから。
剣と魔法と冒険と――そんな物語が大好きだった。
そういえば、魔法使いに憧れていたこともあったんだ。
魔法で悪者と戦ったり、傷ついた人を癒したり、空を飛んだり……そんなことを想像するのはすごく楽しかった。
「魔法とそれを必要とする人との橋渡しって、具体的にはどういうことをすることなんですか?」
小さな頃のことを思い出して、かつてこの町にいた魔法使いが残したという魔法に少し興味がわいた。
そういえば、いつの頃からかサンタクロースや妖精などの存在を信じなくなった。魔法だってそうだ。何となく、成長するにつれてそういったものを信じることができなくなった。あるわけないと、当たり前のように思うようになっていったのだ。
けれど俺は、そういったものが「ない」と断言するだけの根拠を持っていない。
それなら、「あるかもしれない」と思うことは可能だし、そっちのほうがきっと楽しいだろう。
そんなことを考えはじめたら、自然とワクワクした気持ちになってきた。
そんな俺の様子に気づいたのか、タマさんはとても嬉しそうにしている。
「その、昔いた魔法使いっていうのは、この店の主だったの。色々と縁があって、今はあたしが引き継いでいるんだけどね」
「その人は今は?」
「随分昔に亡くなったよ。……今じゃあの人のことを覚えてるのはあたしくらいかなぁ」
かつての店の主のことを思い出したのか、タマさんは遠くを見つめるような目をして、ふっと笑った。
それは大切なものを思い出すときの目だ。
その人といた日々は、タマさんにとってきっとあたたかいものだったのだろう。
「その人はこの店で雑貨を売りながら、魔法を必要とする人へ提供していたの。たとえば、庭の植物に元気がないっていうお客さんが来たら、植物に優しい風を吹かせたり、大事なものを失くして困っているお客さんが来たら、失くしものが辿った道筋が光って見える虫メガネを用意してあげたり……そんなふうにしてお客さんのために作ってきた魔法がまだこの町にはたくさん残ってる。道具だって、雑貨に紛れてこの店にあるし」
本当にまるでおとぎ話だ。
この町が舞台の、優しいおとぎ話。
想像してみた。魔法使いが起こした風が元気をなくした植物を癒す様子を。虫メガネを覗いて光の道を辿って失くしものを見つける人の姿を。
いいなぁと思った。
ささやかな魔法がある世界は、柔らかくてあたたかい。
「肝心の呪文も道具の役割もあたしは知らないんだけどね。でも、新しい呪文と道具の役割を考えられたら、必要とする人たちに届けることができる。だから、それを司くんにやってもらいたいの」
「そんなこと、俺にできるんですか?」
「司くんはね、才能があるの。ううん、縁があるって言ったほうがいいかな」
「縁?」
「実はこの店、縁がないと来られないの。必要とする人だけが訪れることができる、そういうふうになってるのよ」