もう泣いてもいいよね
「隠り花の霊力は桁違いです。あなたもその力をわかってるでしょう?」

「はい」

「私は代々伝えられてきたことを守っているだけです。しかも文献はありません。口述で伝えられているのみです」


私は全ての糸が繋がった気はしたが、その思いもかけない事実に、ただ驚くばかりだった。


「信じるかどうかは、あなた次第よ、皆美」

「もちろん、信じます」

私は即答した。


「でも、そんなこと、書いていいんですか?」

綾女様はゆっくり微笑んだ。


「ただ、一つ頼みがあります」

「はい」

「峰の祠のことは隠してもらえる?そうすれば、皆美の言うファンタジーと言ったか、それで終わるでしょう」


「わかりました」

私はおでこを打つほど低くお辞儀した。

綾女様はくすっと笑った後、私の肩に手を置いて言った。


「今まで、よく頑張ってきたね…」

その手から感じる暖かさが身体中に広がって、涙がこぼれた。

「綾女様!」

私は思わず綾女様の膝に顔を埋めてしまった。

「よしよし」

綾女様はゆっくり私の頭をなで続けてくれた。


それを見ていたタケルと香澄も安心したような笑顔になっていた。


「タケル」

綾女様はタケルを呼んだ。

「はい」

タケルは縁側まで来ると、正座してお辞儀した。

「おまえもこの13年間、よく頑張ったね。霊のおまえが闇に落ちずに、よくここまで皆美を支えた」

「でも、おれ皆美を守れなかった…」

タケルは涙ぐんだが、耐えようとした。

「そうか?おまえはできることをやったと思うし、今も守っているよ」

「…はい」

タケルは歯を食いしばって泣くのを耐えていた。

「本当にこの13年を、ありがとうございました」

綾女様は、再度頭を下げたタケルに優しく手を置いた。

タケルは顔を自分の手に埋めたまま、震えていた。



「じゃあ、皆美。あともう少し、タケルのためにも頑張りなさい」

「はい。ありがとうございました」

綾女様は、すっと立つと私たちにゆっくり頭を下げた。


「ばっちゃん、ありがとう」

香澄が縁側でお辞儀をした。

綾女様は軽く微笑むとゆっくりとした歩みで帰って行った。



香澄が、綾女様に頼んでくれたのだろう。

私はその気持ちを無にすることのないように、頭の中で構想を練り直した。
 
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