もう泣いてもいいよね
翌日、さすがに昼間はまずいので、夕方になって出掛けた。

相変わらず、村のメインストリートにはひと気がなかった。

誰にも会わないまま、実家の雑貨屋の前に差しかかった。

タケルが店の中をのぞき込んでくれたが、「大丈夫」と言いながら手でOKの合図をした。

私は店の前を通る時、中を見ることができずに足早に通り過ぎた。


私はそのまま歩いていたが、香澄の気配がないので振り返った。

香澄は店を通り過ぎた辺りで、店をじっと見ていた。

「どうしたの香澄?」

私は香澄のところまで戻って、少し声を控え目にして言った。

「あ、ごめん。行こっか」

香澄は何もなかったように微笑んで言った。


香澄は店を見て何を思ったのだろう?


「おーい、早く来いよ。日が暮れちゃうぞ」

タケルが大きな声で呼んだ。

手を大きく振って、はしゃいでいる感じだった。

私は一瞬焦ったが、タケルの声は周りには聞こえてないことに気付いたのだった。

それをわかってやっているのだろう。

笑えなかった。

「バカ…」

私は小さな声で言った。



懐かしい鳥居をくぐり、お子守様への階段を登ると、祠が静かに佇んでいた。

境内は夕焼けに照らされて美しく輝いていた。


私たちはとりあえず、お参りすると、昔のように階段のところに並んで座って、景色を眺めた。

オレンジ色に染まった村の街並みに夕焼けの照り返しがあり、濃い茶色に見える家や木々のシルエットとの対比が美しかった。
 
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