もう泣いてもいいよね
第8章 裏祭の夜
残りの時間は、3人で何をするでもなく、過ごした。


逆に、何もできなかったと言うのが正しいのかもしれない。

残された時間が少ないと、何をすればいいのか、わからなかった…



そして、とうとう裏祭の夜になった。


私たちは縁側で足をぶらぶらさせて満月を見ていた。

タケルも香澄も無言だ。


「どうすればいいの?」

私は左側に座っている香澄に聞いた。

香澄はゆっくりこっちを向いて、私の顔を見て言った。

「タケルが子守花に触れるだけ」

「じゃあ、また山に登るの?」

「ううん。うちの祠にもあるから」

「そうなの?」

「うん。だから、…12時までに、うちのお子守様の祠に行けばいいの」

「そっか」



タケルが縁側から降りた。

「星がきれいだな」

タケルは見上げてそう言った。

私たちも縁側から降りて見上げた。

満月は後ろ側なので、目の前は本当に満天の星空だった。


「ほんとだね」

「ほんとだ~」


3人とも言葉を忘れて星のきらめきを見つめた。

その時、流れ星が一筋流れた。

思わず願い事を…と思ったが、間に合わなかった。

香澄を見ると眼が合った。

香澄は軽く微笑んで首を振った。

想いは同じだ。


次は必ずと思った時、タケルが言った。

「『あの日』もすっげー星がきれいだったな…」

私はタケルを見つめた。

「そっか」


「晴れて良かったな」

「うん」


「じゃあ、行こうか」

タケルが笑顔で私たちを見た。

香澄はまだ決心がついてない感じだったが、うなずいた。



また、いつもの並び方で歩き始めた時、私はふと思いついて、タケルの右側に移動した。

そして、タケルの右手と手をつないだ。

タケルは、そのままつないでくれた。


「香澄、タケルと手をつなぎなよ」

私は言った。


「いいよ、私は…」

香澄は戸惑った顔をしてそう言った。


「つなごうよ、香澄」

タケルが左手を香澄に差し出した。

香澄は一瞬その手を見て、そして、右手で軽く髪を耳の後ろにかき上げながら、タケルを見た。

タケルが、「さあ」みたいな表情をしたので、香澄はそっと右手をタケルの方に伸ばした。

タケルはその手をしっかり掴んで、前を向いた。

そのまま私たちは無言で、お子守様までゆっくりと歩いていった。
 
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