もう泣いてもいいよね
途中、実家の雑貨屋まで来ると店は閉まっていた。


どうしたんだろう?


普通ならまだ開けている時間なのに。

でも、おかげで気にせず、前を通ることができた。



お子守様への階段を登り、境内の真ん中まで歩いて行った。

暗がりの中、灯籠に火が入っていて、泉の傍に建つ祠が神秘的に見えた。

綾女様たちは既に守神山へ登っている。

本来なら、香澄も参加するはずだった。



「私、子守花を用意するね」

そう言って香澄は祠の方に歩いていった。

その表情は見えなかった。



香澄が歩いていくのを目で追って、見えなくなると視線を戻した。

するとタケルと目が合ってしまった。


私とタケルは無言で見つめ合った。


でも、タケルは視線を外した。

「タケル…」

「なあ、皆美」

「え?」


「子守花物語、どうしたいんだ?」

「あ、そうだね。何も考えてなかった」

「香澄が言ってたけど、今は、出版社に投稿とかするより、ケータイ小説というので発表した方がいいかもって」

「ケータイ小説か…」

「そっちの方がたくさんの人に読んでもらえるかもしれないってさ」

「うん、わかった。それがいいかも」


その時、後ろから玉砂利を踏みしめる音がした。
 
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