もう泣いてもいいよね
「あははは、相変わらず仲いいね」

香澄が懐かしそうに笑った。

「そんなんじゃないもん」

「まあ、確かに皆美とタケルだけじゃ心配だわ。私が力になるから安心して」

香澄にそう言われると、素直にうなずくしかなかった。

「香澄、ありがと」

「いいよ。友達じゃん。ね、タケル」

香澄はタケルの方を向いたが、またちょっと下を向いて言った。

「どうしたの?香澄」

「何が?」

「だって、タケルとは顔を合わせないから…」

「あ…、そう?なんか久しぶりで照れちゃって」

珍しく香澄にしては慌てた言い方だった。

「そうなの?」

「うん」

香澄はまっすぐ私を見て言った。


「香澄、そろそろ俺たちの番だよ」

ギタリストの人が、さっき演奏したところから声をかけてきた。

「うん、すぐ行く」

香澄が振り返って答えた。


「はいはい。訳わかんない話は置いといて、とりあえず再会は果たしたんだから、おれたちは一旦帰ろう」

タケルが私の肩に手を置いて言った。

「ごめんね。あと2,3セットはやるから」

香澄も手を合わせて片目でウィンクした。

「せっかく再会したのに、なんでそんなに急いで帰るの?」

「いや、香澄は後で皆美んちに来ることになってるし、何というか、おまえも今日はいろいろあったから疲れてるだろうし…」

タケルがちょっとしどろもどろだ。

「私、不思議と疲れてないんだ。もう一回聴いて行きたいな」

私はタケルを、懇願の眼差しで見た。

「じゃあ…もう一回な」

タケルは仕方ないなと言う顔だ。

「うん」

私は満面の笑顔で(多分)答えた。


「じゃあ、聴いてって」

香澄は手をひらひらと振りながら戻って行った。

その時タケルが私を、後ろから心配そうに見つめていることには気が付かなかった。
 
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