もう泣いてもいいよね
「皆美、危ないから降りて来なよ」

「皆美、ほんと危ないよぉ」

「だいじょうぶぅ~」

私はタケルと香澄が止めるのも聞かずに、山にある大きな木に登った。

その木の上の方は枝がいい感じに張りだしていて、つい登りたくなる感じだった。

それに、そこからは眺めが良さそうだったのだ。

案の定、私は足を滑らせて途中で落ちた。

タケルは私を受け止めようとしたが、所詮まだ小学生、受け止めきれずに倒れ込んだ。

その時タケルはあごを岩に打ちつけて切った。

しばらくタケルは痛がっていたが、血を流しながらも私に言った。

「皆美、大丈夫か?」

「私は大丈夫だよ。それよりタケルの方が酷いケガだよ」

「大丈夫だ。こんなの痛くねえよ」

私は起き上がろうとしたら足をひねって少し切って血が出ていることに気付いた。

「痛っ!」

「皆美!」

「足ひねっちゃった…」

それを聞いたタケルは私を背負おうとした。

「無理だよ」

当時タケルとほぼ一緒の身長の私は、そう言って乗ろうとしなかったが、タケルは自分のケガよりも私のことが先だった。

「早く乗れ!」

仕方なく、タケルの背中に背負われた。

香澄は横で、青ざめた顔を両手で覆って、固まっていた。

「香澄、ついてこい」

タケルは香澄に声をかけ、私を背負ったまま、よたよたと山を下り始めたのだった。

タケルの首に回した手に生暖かいモノを感じてのぞき込むと、タケルのケガの血が私の腕についていた。

タケルのあごに手が触れないようにしようとしたら、タケルは「しっかりつかまってろ!」と叫んだ。


本当に痛かったはずだ。

私はしっかりつかまりながら、
タケルの背中で泣いた。



後で聞いたら、4針縫って、さらに歯が1本折れていたらしい。


私はそんなタケルが好きだった。
 
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