もう泣いてもいいよね
「でも、タケル、今までどこにいたの?」

「結構近くに住んでたけど、今はちょっと仕事無くてプー太郎状態かな。先週部屋を追い出されたばかりだ」

「ええー!タケルこそ大変じゃん!」

「まあ、おれはオトコだから何とかなるさ」

タケルは平然としている。

「タケルは昔からすごいね」

「そうでもないよ」

タケルが照れているのがわかる。

子供みたい。


「近くにいたのなら会いに来て欲しかったよ」

私は素直に言った。

「いや、おまえの邪魔にはなりたくなかったんだ。それでも何かあったら、こんな風にすぐに駆けつけるつもりだったさ」

「変なの。昔のタケルはそんなに遠慮深かったっけ?」

「まあ、あの頃と変わってないさ…」

タケルは珍しく、少し寂しげに言った。

「そうだね。タケル変わってないよ。相変わらずかっこいいと思うよ」

「おいおい、変なこと言うなよ」

タケルがさっきよりも照れていた。


そうして、タケルと話し込んでいると、部屋のチャイムが鳴った。

「こんばんわ」

香澄だった。

「いらっしゃい」

私は香澄を部屋に招き入れた。

「よお、お疲れ」

タケルが香澄に声をかけた。

「はあい」

香澄が軽く手を挙げた。

「ギタリストの人は?」

私は香澄が一人なのを見て尋ねた。

「ああ、省吾?彼は忙しいから」

「省吾さんって言うんだ?そうなんだ」

「ここ座っていい?」

「どうぞ」

香澄は、テーブルにタケルと私が向かい合っているので、タケルの右手、私の左手になる場所に座った。



そう言えば、昔、私たちは遊ぶ時、歩いている時、何かを話す時、何気なくよく横並びという立ち位置だった。

タケルが一番右で、真ん中が私、そして香澄。

よく考えれば、そうなるようにしていたのは香澄だった気がする。

タケルとの間に私を挟む香澄が、実はタケルを好きだったのは知っている。

私とタケルに遠慮していたのか、勇気がなかったのかは、今まで聞かずじまいだった。


今はどうなんだろう?
 
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