もう泣いてもいいよね
「で、皆美、これからどうするの?」

「とりあえずは蓄えもあるから、生活は何とかなると思う」

「お金のことなら、私が面倒見るよ」

「え?それは、いいよ」

「皆美、素直に甘えろよ。おれたちは遠慮する仲じゃない」

タケルが言った。

「タケルが人のこと言えるの?」

「実は既に援助を頼んだ」

そう言ってタケルは、ちらっと香澄を見た。

「はあ?タケル、あんたオトコだったんじゃないの?」

私はちょっと呆れて言った。

「お金なんかより、何がやりたいか…それが大事だと思うよ。私はいらないお金が余ってるから気にしないで」

横から香澄が言った。

「何がやりたいか…?」

「うん」

香澄がまっすぐ私を見つめた。

「そう言われると、タケルにも言ったけど、物語が書きたい」

「そう。じゃあ、今は書いたらいいと思うよ」

香澄はにっこり笑って言った。

「そうだよ。大事なのは、『今何をやりたいか』だってば」

タケルにそう言われてもな~と思ったが、香澄が言った。

「タケルね、しばらくあなたを守らなくちゃいけないから、そばにいなくちゃいけないから仕事する暇がないんだ、だからお金を貸してくれって言ったの」

「え?」

「皆美が言ったように、タケルがそんなことを言うのは『オトコ』として相当な覚悟だと思うけど?」

香澄がタケルを見ると、タケルが苦笑した。


「…うん。そうだね」

香澄にあらためて言われて気付いた。

そうだ。

タケルならそんなこと口が裂けても頼むはずないんだ。


「タケル、さっきはごめん」

「いいよ。照れくさいじゃないか」

タケルはまた照れていた。
 
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