もう泣いてもいいよね
「でもね、家を出る時の母さんの顔が忘れられないの」


母さんの心配のとおりになった。

どんな顔をして会えばいいというの?


「じゃあ、皆美のおばちゃんには会わずに、うちのばっちゃんだけに会えばいいよ」

「ううん。とにかく村へは帰りたくないの」

私の言葉に香澄は少し哀しげな顔をした。

「どうしたの?香澄、何かあるの?」

「いや、別にそういうわけじゃないけど」


「じゃあとりあえず、東京にいるんだからまずは東京で調べるか」

横からタケルが場を収めるように言った。

「そうだね」


「じゃあ、私が一度村に帰って、ばっちゃんに聞いてくるよ」

香澄があきらめたように言った。

「ほんと?」

「うん」

「でも、バンドは?」

「大丈夫だよ。こういうこともあろうかとしばらくお休み」

「え!うそ。そんな迷惑かけられないよ…」

「本当に大丈夫だって。ちょうどアルバム作るのに曲作りしなくちゃいけなくてさ。省吾はそっちにかかるから」

「そう…?」

「うん」

そう言った香澄の顔は曇りのない笑顔だった。


「わかった。ありがとね」
 
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