もう泣いてもいいよね
まあ、図書館で騒いでもしょうがないので、また本探しに戻った。


歴史関係はあまり参考にならなかったが、郷土史を読んでみると、あちこちにいろんな伝説があった。

信州の郷土史もたくさんあったが、さすがに私の村の記述があるものはなかった。


そう言えば、「守神山」はその名前では地図に載っていない。

小学校の時、他の地域から来ている友達がみんな地図上の名前で呼んでいた。

そう。

守神山は森川村だけで呼ばれていた名前だ。

かなり狭い地域での呼称に何かを感じる。

子供の頃は、ただ「山」としか呼ばなかったから、そのことに気が付かなかったのだ。


「守神山」「子守花」「お子守様」

そう言った、森川村では普通だった呼称がいくら探しても見つからなかった。

蘇りについてだけなら、いくつか伝説は見つかったが、どうも子守花の伝説とは違うようだった。

「黄泉がえり」といえば、古事記、日本書紀…

ちょっと、それも違うなと思った。


「皆美、なんか見つかったか?」

タケルが声をかけてきた。

「ううん。タケルは?」

「だめだめ…おれ、字を見てるとだめだ」

「はあ?ちょっとタケル、あんたフリーライターでしょ?」

「あ、ああ…やっぱ、おれには無理な仕事だったんだな」

「あんたね…」

私は勉強がからっきしだったタケルを思い出して、ため息をついた。


ずいぶん長い時間立ちっぱなしで本を探していた。

集中してたからか、時間が経ったことに気付かなかった。

窓の外を見ると、既にきれいな夕焼け空だった。

「タケル、今日は帰ろっか」

「そうだな。まだ全部見きれていないし、また明日でも来よう」

「うん」

私たちは図書館を後にした。
 
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