もう泣いてもいいよね
ふと、振り返ると、あのぶつかった男性が図書館のガラス越しに立ってこっちを見ていた。

なんだろ?

気味が悪い。

私は思わずタケルの腕にしがみついた。

「どうした?」

「変な人が見てるの…」

タケルはその男性の方を見たが「気にするな。変なやつはどこにでもいる」と言って、腕をそのままにしてくれた。

「さあ、帰ろう」

「うん」

私は夕焼けを見て、気にしないようにした。


最初は怖さで心臓がドキドキしていた。

理由はどうあれ、タケルの腕につかまったことはさらに心臓をドキドキさせた。

タケルの腕は思ったよりたくましかった。

「タケル…」

「なに?」

「彼女はいないの?」

「何だ、それ?いるわけないじゃん」

タケルは吹き出しながら言った。

「今までも?」

「…まあな」

「なんで?タケル格好良くなったじゃん。モテなかったの?」

「もうやめろよ」

タケルが影のある真面目な顔で言った。

「ごめん…」

思わず謝ったが、タケルがなぜそんな表情で言ったか、その時の私にはわかるはずもなかった。

下を向いてタケルにつかまる腕に力を入れた。

タケルは私をもう一度見たが、その時は軽く笑顔に戻っていた。


香澄のことは気のせいなんだろうか…
< 37 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop