もう泣いてもいいよね
「タケルは、ここに子守花を取りに来て崖の下に落ちて大ケガをしたよね」

「うん」

「その時、本当は死ぬはずだったの」

「え!?」


「香澄…」

タケルが戸惑った声を出した。

「いいから」

香澄はタケルを制して言葉を続けた。

「その時、偶然、タケルが手にしていた子守花の霊力が彼が死ぬのを引き留めたの」

タケルはそれを聞いて、少し安心したような顔をした。

「でも、もう一度子守花に触れたら、その霊力の効果は相殺される」

「相殺されるって…?」

「本当に死んでしまうのよ」

「うそ…」

私はタケルを見た。

タケルは肯定するように力なく笑った。

「さっきのは死にかけたってこと?」

「そうよ」

「タケル…」

私はタケルのそばに行ってタケルを抱きしめた。

「おい…」

タケルは戸惑い気味になったが、そのままじっとしてくれた。

「ごめんね。何にも知らなくて」

「いいよ。おれはここにいるだろ?」

「うん」

香澄は、そんな二人を哀しそうな目で見ていた。


「ねえ、香澄」

私は香澄の方に振り返って聞いた。

「タケルは、子守花に触れさえしなければ、ずっと生きていられるの?」

「大丈夫だよ。その霊力を森川家でずっと守ってるから」

「そっか、そうだね」

その時の余裕のない私は、香澄が無表情だったことに気付かなかった。




「さあ、帰ろうか」

タケルが立ち上がった。

キャンプ道具がある訳じゃない。

春とはいえ標高のあるこんな吹きっさらしでは一晩は過ごせない。


「カメラ持ってくれば良かったな」

タケルが子守花を見ながら言うと、香澄が携帯を出した。

「これで撮っておこうよ」

「おお、そうだよ」

「そうだね」

なんで思いつかなかったのだろう。

香澄に子守花を撮ってもらった。

ついでに私とタケルも入って子守花を挟んでアップで撮ってもらった。

今度は、私が香澄とタケルを入れて撮った。

そして、タケルが香澄と私を撮ってくれた。



その後、私たちはゆっくりと気をつけながら山を下り、ツリーハウスまで戻った時はもう0時を回っていた。
 
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