もう泣いてもいいよね
夜、タケルと香澄の寝息を確かめて、私は起き出した。

鍵は床の間に置きっぱなしになっていた。

私は鍵を手に取ると、パーカーのポケットに入れて、音がしないように気をつけてタケルの実家を出た。



今夜も、虫の音がすごかった。

しばらく歩いて、振り返った。

満点の星空の中に黒い塊がそびえ立っているように見えた。

そのほぼ、頂上付近にあの子守花が咲いていたのだ。


「また、見ることはできるのかな?」


つぶやいてみたけど、自分の声も聞こえないほど、虫の音がすごかった。


それから15分ほど歩くと、見覚えのある平屋が見えてきた。

私は、鍵を取り出し、入り口を開け、明かりをつけると、資料室へ向かった。

資料室のドアを開けて明かりをつけた。

そして、すぐ左側のキャビネを覗いた。

新聞のスクラップのあるところだ。

ガラス戸を開けてちょうど抜けた感じのところの左側の1冊、No.8を取り出して開いてみた。

やはり、新聞のスクラップだ。

日付は「あの日」より以前だ。

パラパラとめくってみたが、あの日に届かない。

それを戻して、抜けた感じの右側のファイルNo.10を取り出して開いてみた。

今度は、あの日以後の日付だ。
「やっぱり…」


ちょうどあの日を含むファイルNo.9が無い。

キャビネの中を探してみたが見つからなかった。

他のキャビネも覗いて、書棚も見てみたが、やっぱり無かった。

とりあえず、他の部屋や、事務室も探してみたが、見つからなかった。



また資料室に戻った時、最初のキャビネの下を見ていないことに気が付いた。

ガラス戸じゃないその戸を開けようとすると鍵がかかっていた。

私は鍵の束を見て合いそうなのを探してみた。


3つ目でそれは開いた。


あった。

ファイルが1冊入っていた。

取り出してみるとそれにはNo.9と書かれていた。


「これだ…」


なぜ、このファイルだけ、見えないところに置かれていたのだろう?

それに、最初に来た時、ブレーカーが上げられていた。

誰かが、明らかに私たちが来るのを知って隠したのだ。

そこまでしなくちゃいけないっていうのは…



私はそっと、めくってみた。

数ページめくって「あの日」の翌日の日付を見つけた。
 
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