もう泣いてもいいよね
「皆美…」


抱きしめる腕に力が込められたが、震えは止まらない…


さらに抱きしめる腕に力が込められた。



震えながら、ゆっくり振り向くと、よく知っている顔が私を見ていた。


嗚咽の止まらないまま声を絞り出した。


「た、タケル…」

「皆美…」


「あなたは…あなたは…だれ?」

「皆美…おれは…」




「タケルだよ」

声の方に顔を動かすと沈んだ顔をした香澄が立っていた。


「見つけたのね…」

「ねえ!どういうことよ?!」

立ち上がろうとするのを、タケルが抱きしめたまま離さなかった。


「今、皆美を抱きしめているのは正真正銘のタケルだよ?わかってるでしょ…」

「だって!…だって、タケルはあの日死んだよ…私が殺したんだよ」

「違う!それは違う!」

タケルが叫んだ。

「じっちゃんも…私が…」

「皆美、違うって言ってるだろ…」


タケルは自分を納得させるように言った。

「おれはここにいるんだ。ここに…」


「教えてよ?…どういうことなのよ?」

私はタケルに抱きしめられたまま泣きながら、誰に言うでもなくつぶやいた。


香澄がこれ以上ないくらいの哀しい目をして私を見ていた。
 
< 91 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop