もう泣いてもいいよね
なんてことだろう…


香澄のタケルへの気持ちはわかっている。

それなのに、そんなタケルの幽霊をずっと見ていたの?

私は、自分は、記憶を封印して心を守っていたのに、香澄は、私のためにずっと耐えてきたの?


その気持ちを想像した瞬間、香澄の深い哀しみに気付いた。


タケルもそうだ。

幽霊になってまで、私を守ろうとした。

私はずっとそれに気付かずにきた。

そばにいながら気付いてもらえないなんて、どれだけの哀しみだっただろう?


「香澄…ごめん。タケルも…ごめん。13年間も…。私はなんてバカなんだろう」

これ以上、二人に甘えられない。

これ以上、二人に負担はかけられない。

守られてばかりじゃいけない。

今度は私が二人を…


「皆美」

タケルの声にハッとした。


「おまえは自分のやるべきことをしろ。おれはそれまではちゃんとそばにいるから」

「そうだよ。私たちの今までの気持ちを無駄にしないで」

「でも…」

「おまえがおれや香澄の立場だったら、同じことをしたろ?」

香澄も、そうでしょ?という表情で見ている。


「…うん。したよ、絶対」

「よし、なら、おれたちの気持ちわかるな?」

考えるまでもないことだった。


「うん。わかった」


私も心を決めた。


秋までには絶対に物語を完成させなければいけない。
 
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