もう泣いてもいいよね
私はそれから約1ヶ月ほど設定を考えた後、原稿用紙にペンを走らせ始めた。

ワープロは使わない。

これが私の書くスタイルだ。

それでもまだ7月初めで、9月の終わりまではあと3ヶ月近くある。

設定に時間をかけた分、書くのには時間がかからないのが常だった。


1ヶ月の間、香澄は一旦東京へ戻ったりしたが、タケルはやっぱり、ずっとそばにいてくれた。


香澄がレコーディングとか、一仕事終えて帰ってきた時、とりあえず、書き上げていた50枚ほどを二人に見せた。

タケルが口に出して読んだ。

「なによ。声出して読まないでよ。恥ずかしい」

「いいじゃんかよ。おれはまだガキなんだから、音読しないと理解できないの」

「はいはい。そうでしたね」


わかってはいても、私には、以前として大人のタケルのままだった。

香澄に言わせれば、「そうだ」と思い込んだから仕方ないらしい。


タケルが読み終えると、香澄が言った。

「いいんじゃない?」

「うん。おれもいいと思う」

「『中山みなみ』の時より絶対いいよ」

香澄に言われて、苦笑した。

「そうだね。これは自分で書いてるんだもん」

「じゃあ、私がワープロに打ち込んでおくよ」

「必要かな?」

「まあね。今時、デビューした作家じゃないと、手書き原稿は投稿とか無理かも」

「そっか…じゃあ、お願いするね」

「うん、任せて。タケル、読み上げてね」

「はいよ」


さっそく、二人は隣の部屋で打ち込みを始めてくれたのだった。
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