もう泣いてもいいよね
気分転換をしようかと思った時だった。

縁側に一人の着物姿の女性が立っていた。

凛として、若く見えるその姿。


「あ、綾女様…」

綾女様はゆっくりと頭を下げた。

私も慌ててお辞儀した。


「ここ、いいかしら?」

綾女様は縁側を示した。

「はい!どうぞ」

私はちょっとよけて、縁側に正座した。

綾女様はゆっくりと座ると私を見た。


「皆美、久しぶりだね」

「はい。綾女様も」

綾女様はにっこりと微笑んだ。

その笑顔に私は何か救われる思いがした。



「今日は、あなたにお話をしに来たの」

「はい」

「今、筆が進んでないんでしょう?」

「ええ」

「子守花のこと、調べ切っていないから、何かが足らないような気がしてるのね?」


「はい、そのとおりです」

綾女様はお見通しだった。


「子守花…そして、お子守様。みんなそう言ってるわよね」

「はい」

「でも、それは本当の呼び名じゃないの」

「え?」


「これは、森川家の者しか知らないことです」

綾女様は、涼やかな眼差しで、私を真っ直ぐに見た。

私は次の言葉を待った。



「本当は、お子守様は隠れると書いて『お隠り様』、子守花は同じく『隠り花』、そして、六ヶ枝祭は迎えると書いて『迎え祭』と言うの」

「どうして、そんな字を書くんですか?」


「お隠り様って、どなただと思う?」


「えっと…」

私は元々のお子守様がどんな神なのかも知らないので答えようがなかった。


「この字を書くと簡単だと思ったのだけど…」

「え?まさか、隠れたというと……天照大神!?」


女様は微笑みで答えた。



「天の岩戸は全国各地に言い伝えがあります。京都の岩戸神社。高千穂の天岩戸神社。沖縄県でもクマヤ洞窟。伊勢神宮の外宮高倉山古墳など」

確かに、他にもあったはずだ。

「でも、どれも天の岩戸のことです。岩戸の洞窟は出口がないと思っていますか?」

「はい。確か、岩戸が唯一の出入り口ですよね?」

「でも、そこから、神が抜けられる道があったとしたら?」

「え?」

「その出口が、あの守神山の祠の洞窟だったとしたら?」



私は全ての謎が解けた気がした。
 
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