七夕の日に願い事を。
7月7日
「__うーん…」
「…」
「うーーん…」
「…」

___俺は災鬼新-サイキ アラタ-、高校1年の15歳。隣にいるのは同じ高校1年15歳、幼なじみの桜木さゆみ-サクラギ サユミ-。

「うぅぅぅん…っ…」
「…」
「…んー……っ、あぁーもう!」
「…」
「決まらないっ!願い事決まらないっ!!」
「…」
「ねぇ新、どうしよう!?願い事が決まらないっ‼」

___俺たちは毎年この7月7日の七夕の日に決まって短冊に書く願い事を決めているんだが、今年はさゆみが一向に決まらない。

「………」
「………」
「………はぁ。」
「何故に溜め息っ!?」
「そんなもん、さっさと決めて書けばいいじゃねーか。」
「だーかーら!決まらないの!」
「だったら全部書けば?」
「だ、だめだよっ!願い事は1つだけ。欲張りと思われて叶えてくれないかもしれないじゃん!!」
「…ちなみにどれくらいあるんだよ?」
「ん?えっとねー…、1.2.3.4.5.6.7………7っ!!」
「多っ!!」
「だからさっきから言ってるでしょ…決まらないって。」
「…」

___変わんねぇな。

「…__どうせ書いたって意味無ぇんだから、適当に決めてさっさと書けよ。」
「…え?」
「………」
「…何で、そんなこと言うの…?」
「………」

___何でって。

「意味無くなんか無いよ…?ちゃんと願い事は叶うんだよ!」

___そんなの決まってんじゃん。

「…あんなの、ただの作り話だ。それにもし本当の事で書いて願ったって、ただの自己満だろ。だから結局…意味なんて、無ぇんだよ……。」

___クシャッ。

「…__そんなことないもんっ!!!」

___ビクッ!?

「ちゃんと叶うもんっ!!ちゃんと彦星様も織姫様もいるんだもんっ!!何でそんなこと言うのっ!!ちゃんと信じていれば叶うんだよっ!!……何で信じないの、……っ…」
「……さゆみ…」
「…、…あ…」
「…あ?」
「…新の、バカァァァァァーーー!!!」

___ビクッ!?

「…はっ?バカ?」
「うぇぇぇん…あ゛らだのバァガァ゛ァ゛ァ゛ーー…!!」
「おいおい。」
「うぅ…ひっく……うぅ…っ…」
「__……っ…」

___ほらみろ。願い事なんて叶わないじゃねーか。

「………」
「……ひっ…う、うぅ…」
「さゆみ。」
「………」
「さゆみ。」
「…な、によ…っ…」
「…願い事ってさ、自分以外の奴に言うと叶わないって言うだろ?」
「…それ、が、どうしたの…っ…?」
「…さゆみのさ、願い事___」
「…?」
「___……7個、だっけ。それ、全部俺に教えてくれねーか?」
「「………」」
「…………………………え、やだ。」
「………教えてくれよ。」
「やだ。」
「なぁ、教え「やだっ!」……。」
「「………」」
「お「やだ!」…っ(怒)」
「やだっ!ぜぇぇぇぇったい!教えないもん!」
「…はぁ、さゆみ。」
「教えないよ。」
「教えろ(怒)」
「命令口調っ!?」
「教えろ(怒)」
「や、やだ!」
「………(怒)」
「………(防)」

__________。

「い・い・か・らっ!お・し・え・ろっ!」
「い・や・だっ!」

___何で取っ組み合いなんかしてんだよ!

「何でそんなに聞きたいの!?」
「…っ!?そ、それは…」
「?」
「…それは、だな…その、あれだ。」
「何よ?」
「1つに絞れねぇんだったら、俺が全部叶えさせてやるってこと…だよ。」
「え?」
「…っ…だから、さっさと言えよ、願い事。」
「………」
「………」

___やっぱり言わなきゃ良かったか…?

「…さゆみ。」

___ 慣れないことは言うもんじゃねーな…。

「悪かった。急に変なこと言って困らせたな…さっきのことは忘れて「___るの…」…さゆみ?」

___何だ?

「…願い事、叶えてくれるのっ?」

___っ__!?

「…新…?」
「あ、おっおう!約束だっ!!」

___驚いた。急に可愛い顔するから。

「!!…えへへ(笑)」
「な、何だよ?急に笑い出して。」
「だって約束とか久々に聞いたから。小さい時はよく言ってたけど、今はそんな言葉聞かなくなったから…何だか懐かしくて、嬉しくなっちゃった!」
「あー、そう言えば言わなくなったな。」
「ねぇ、何で?」
「何がだ?」
「何で言わなくなっちゃったの?」
「何でって言われてもなぁ…まぁ、必要なくなったからじゃねーの?」
「必要なくなった?」
「他のやつは知らねーけどさ、俺とさゆみとの間には約束なんての言葉はいらねーって思ってんだよ。だってさ、俺たち幼なじみを越えて、17年間腐れ縁もいい程ずっと一緒にいるし、お互い今何考えてるのかだいたい分かるだろ?」
「うんうん!」
「あー今さゆみ、腹減ってんだろうなとか、難しいこと考えてるんだろうなとか、体調悪いんだなとか、すごく嬉しいことがあったんだろうなとか…さ。」
「私もね!新、不機嫌だなーとか、眠たいんだなーとか、何か良いことがあったんだとか分かるよっ!」
「だからだよ。」
「?」
「お互い分かるから…気持ちが通じあってるから、約束する必要はねーんだよ。」
「新…」
「第一!」
「っ!?」
「約束する前にお互いさっさと解決しちまってるだろ?」
「…っ!!そうだね!」
「…」

___幼なじみ。

「じゃあ早速、願い事書いてもいい!?」
「…あぁ。」

___…気持ちが通じあってる、か…。

「えっとねー♪…」

___短冊に願い事を書き始めたさゆみ。

「るんっるんっるんっるんっきゃるるるんっ♪」
「…」

___嬉しそうなのは分かるんだが、この鼻歌?は意味が分からねー。

「…出来た!!」
「何て書いたんだ?」
「はいっ♪」

___さゆみは願い事を書いた短冊を裏返して俺に渡した。
俺はそれをひっくり返してどんな願い事なのか見てみると_

「_っ__!!」


" ずっと新と一緒にいられますように "


___驚いた。(本日2度目)

「…は、恥ずかしいね。何かずっと隠してた事を本人に見せるって。」
「っ…。」

___俺は今どんな顔をさゆみに向けているんだ。

「いつも言っている事なのに、七夕の日まで同じ事書くって馬鹿だとは思ってはいるんだけどね。」

___さっきみたいにすぐには冷静を保ててはいない。

「願い事、毎年同じ事書いているんだよっ。彦星様と織姫様に『去年も願い事を叶えてくれてありがとうございます。今年も叶いますように』ってっ!」
「っ_!?」

___驚きと信じられない疑いの目を向けてさゆみを見ているんだと思う。

「今年は他にもいっぱい願い事があるって言ったけど…やっぱり1番はその願い事なんだよね!」
「………」
「新…は、『こんな事しなくても俺たちは幼なじみなんだからいつも一緒にいるじゃねーか』って思ってるかも知らないけど、私は新が言うように作り話だとしても…っ…不安、なのっ…。」
「………」
「今はまだ一緒にいてくれてるけど、これから先私たちが大人になって別々の大学とか就職先になって、新に好きな人とか彼女とかっ…が出来たら一緒にはいられなくなる…__だからね!ずっとじゃなく…て、いい。自然とそうなる時が来るまでは、一緒にいたい…。」
「………」
「新…」
「…っ、!!」
「_願い事…叶えてくれる…?」

___……。

「_やっぱりただの作り話だ(ボソッ」
「え?」

___グイッ!

「きゃっ…!?」

___ギュッ!

「!?あ、あああ新っ!?」

___俺はさゆみを引き寄せ、思いっきり抱き締めた。

「…さゆみ。」
「な、なな何!?」
「好きだ。」
「……………え………え、えぇぇぇぇぇっ!!??」
「…」
「き、急に何を仰っているのですかっ!?」
「………ガキの頃からさゆみを見てた。さゆみだけを見てた。」
「っ!!」
「さゆみが俺の事を幼なじみとしてしか見てないのも知ってる。でも、それでも良いと思った。」

___『新!』

「俺たちが幼なじみのままでさゆみが居心地が良いのなら俺は構わなかった。この想いは俺の中で閉まっておけば、さゆみとこれまで通り側にいられる。それで十分だった……けどな…っ…。」

___『新っ!』

「俺、日に日におかしくなるんだよ。今までに無かった感情が急に生まれて来たみたいに。」

___『あーらーたっ♪』

「…最初は一時のものだったんだ。けど最近、さゆみが欲しくて欲しくて…俺だけを見てれば良いのに…俺だけのものだったらいいのにって…っ__もうさ、俺の中ドロドロなんだぜ…っ。」

___『新、大好きっ♪』

「…なぁ、さゆみ。」
「…?」
「こんな俺でも、ずっと一緒にいたい…と、思うか…っ…?」

___ギュッ。

「…」

___。

「「………」」

___…バカだなー俺。何自分でダメな事言ってんだろ。これじゃ好きになってもらうどころか、幼なじみにすら戻れねぇじゃねーか…。

「…新。」

___ピクッ…。

「…何だ…?」
「私ね。新とは幼なじみだからずっと一緒にいたいのかなと思ってた。小さい頃から本当にずっと、一緒にいたから。だけどね。中学3年の冬…ちょうど新と家に帰る時にねその年初めて雪が降ったでしょ?」
「…あぁ。雪降り始めた途端、さゆみがはしゃぎだした。」
「そうそう!私嬉しくて小さい子みたいにはしゃぎだしてね、『早く積もって新と雪合戦とかしたいなー』とか思ってたんだ。その時ふとね、新を見たんだ。」
「…」
「新を見てね…ネックウォーマー?に顔を埋めながら頬っぺたが赤くなってて『あー、寒いんだなー』とか思ったんだけど、そんな事ほんの一瞬で__…っ、新が、はしゃぐ私を見ながら本当に幸せそうな顔で微笑んでたんだ。」

___!?

___俺はさっきまで抱き締めていた腕を解いてさゆみと向き合った。

「私…そんな新を見たらね、体全体に電流が走ったみたいな感覚になって…季節は冬で雪まで降って寒いはずなのに、だんだん熱くなっちゃって。」
「…」
「その時からね、新の今まで気にしなかった事が気になり始めたんだ。女の子から告白されてるのを見ちゃった時も部活で頑張っている時も、今までは『新は凄いなー』とか思ってたんだけど、今は何かね…凄いとは思ってはいるんだけど一緒にモヤモヤ、するんだ…。」
「…さゆみ…。」
「_でもね!」
「!?」
「新と一緒にいる時、胸がこう…ドキドキしたり!後、ちょっとの事で急に恥ずかしくなったりするんだけど全然嫌じゃないんだ!もっともっと一緒にいたいなって思うのっ!私も新と一緒でおかしいの!」

___~~っ~……!

「ねぇ、新…」

___…バカやろう…っ…。

「この気持ちって、恋なのかな…?」

___…バカやろう…っ…!

「新が私に好きって想ってくれてるのと一緒で…__」

___…バカやろう…っ…!!

「私も…新のこと好きってことでいいんだよね…?」

___。

「新、泣いてるの?」
「……っ…うるせー。もう黙っとけ…。」
「…うん、分かった。」

___ギュッ。

「…っ、…」

___今度はさゆみが俺を抱き締めた。まるで涙を堪えているガキを優しく包み込むように、そっと抱き締めた。俺はそれにすがる様にさゆみを抱き締め返した……___。
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