彼の一言は私を次々と変える
美咲には悪いけど、あまり今のところあまり楽しくない。
これなら美咲と二人だけのほうが楽しめたんじゃないだろうか。出店回って、山車を見て、花火を――――。
巾着から携帯を出して、まず美咲にかけてみる。出ない。根気強くかけていると『菜々美!今どこ?』とざわめきを背景にした美咲の声が聞こえた。聞き取りにくい。
『健太は捕まえたんだけどさ―――っていって』
「え?なに?もう一回言って?」
人々の賑わいや出店の声なんかが混ざり、聞き取りにくく何を言ってるのかわからない。
花火大会まであとどのくらいだろうか。電話の向こうも賑やかだが、美咲のほうも同じようなことになっているだろう。
前の方には人の流れがあり、出店の匂いが流れてくる。
「見つけた」
「!」
携帯をあてた耳から『菜々美?聞こえる?』と美咲の声。聞こえるけど、それよりも今目の前にいる人物のせいで色々と思考が止まっているよと言いたい。
修二郎だった。
人混みに流された、といって「探しに来たんだ」と。
どうやらはぐれたのは私だけのようで、美咲らは健太と一緒にいるらしい。
修二郎ははぐれた私を探しに来てくれたのか。
まじですかと思うが、私一人だけはぐれただなんてどんくさいな、とも思ってしまう。けど…ラッキー、だったかもしれない。
美咲と通じている携帯に「今、菅野君と合流した」と話すそれを、彼が黙って見ている。そんなに見ないで欲しいと思っても、口に出さなければ彼には通じない。
「中村か?」
「うん。先に花火大会の会場に行ってるって。その、ごめん」
「なにが?」
「探させちゃって」
わざわざあの人混みのなかを戻ってきたのだ。大変だったに違いない。
修二郎は「いや」と笑う。
「別にそれはいいんだけどさ。それより笹野と糸井には参ったな」
「え?」
「白川は苦手なんだろ、ああいうの」
どういったらいいのか。
はっきりいえず「ちょっとね」とだけ返した。
修二郎にくっていていただけのことがあって、有香らははぐれることはなかった。あとから健太と美咲が追い付いたものの、私がいない。で、修二郎が探しに来てくれた――――のはいい。
二人だけ(いや、回りには人がたくさんいるが)。見られてる。やばい。浴衣着崩れてないかな。薄化粧は?汗かいてるんだけど、と視線がさ迷う。