彼の一言は私を次々と変える



「俺らもいくか」
「うん」
「…手、繋いでもいいか?またはぐれるとまずいし」
「え、あ、いいけど…私ちょっと汗かいてて」
「ああそうか…俺もかいてるけど、駄目なら」
「いや、気にしないなら、私は」



 巾着を持っているのとは逆の手を出すと、がっしりとした手が勢いよく掴む。そのくせ握る力は強くない。人混みに入る。

 やばい。
 やばい。
 それしか言葉が浮かばない。


 私の手は小さくて、よく美咲には「小学生みたいな手」と言われる。小さくて、むにむにしている、子供っぽい手。だが修二郎の手は大きい。すっぽり覆われてしまいそうな感じ。暑い。体温。

 前はこっそり見ているだけだった。格好いいなと思っているだけで満足だった。彼女になりたいかと言われれば、そりゃあと
なりたいけど、考えて見ると私と彼とでは全然合わないだろうと思って。


 全然、だ。
 全然、かな。
 ちょっとくらい、その、見えないかな。彼氏彼女に。


 人は相変わらず多くて、修二郎は「大丈夫か?」と振り返る。私は私で「うん」といいながらも大丈夫じゃなかった。慣れない下駄に浴衣という組み合わせは可愛いけど、ごめんといいたくなるほど人混みに揉まれて疲れていた。
 修二郎の手の握る力が強くなった。私はそれに答えるように、どさくさに紛れるように握り返す。今しか出来ないとでもいうように。

 だって、そうじゃないか。
 今の状況を美咲が知ったら、にやにやしながら頑張れって言うかもしれない。もう十分頑張っている。


 ――――そして。
 ちょうど人混みから少し外れたときだった。
 夜空に大きな音が響き始めたのは。



「あー、始まっちゃったな」



 周囲の人も足を止めて見ていた。花火大会が始まってしまったそれを、無言で眺めた。

 歩きながら、無言になってしまったそれに私はどうしたものかと困っていた。

 修二郎はしゃべらないで、そのまま私の手を握ってゆっくり歩いている。その力加減わ私はどのくらいにしたら、だなんてどうでもいいのか良くないのかわからないことが浮かんでは消える。



「たまに部活、見に来てただろ」
「うん」
「興味あるなら先生に」
「ただ、どんなものかなぁと見てただけだから」



 私の馬鹿。
 見に行っていたことを知られていたのはいいとして(いい、のか…?)、それを私が剣道に興味があるからだと思われているのは、不味いのではないだろうか。

 万が一勧誘されたら、といろいろと考える横で「なんだ」という。



「俺のこと見てたんじゃないのか」
「えぇ!?」



 間抜けというか、可愛くない声が出た。
 
 いきなり私が足を止めたので、当たり前だが手を繋いでいる修二郎も止まる。顔が熱くて、足元に視線がさ迷う。「いや、あの」としどろもどろとなるそれは、答えになってしまわないかとひやひやだ。


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