黄金のラドゥール
ハルは部屋を出た。
重い扉が閉まる。と、膝が震えてヨロけそうになるのを堪えた。

心臓は飛び出しそうなほど鼓動が速い。
手先は感覚がわからないほど冷たい。
緊張していた。
皇子も大臣たちも見る余裕などなかった。

『ここで止まっていられない。
コウジュンの執務室まで戻らなくちゃ。』
ハルは自分に言い聞かせた。

ゆっくり一歩を踏み出すが、
崩れ落ちそうになったところを、後ろから飛び出してきた手に支えられた。


「ガイン!」

「ハル様!」
ガインはハルの震えに気がついた。
「お支え致します。」だが、

「大丈夫、歩きます。」そう言うとハルはガインの手を解いた。

『どこで誰が見ているかわからない。
噂はどこからでもひろがるのだから。』
ハルは背筋を伸ばして歩き出した。




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