黄金のラドゥール
ハルは考えていた。
じっと自分の胸に手を当てて、心に聞いていた。このぽっかり穴が空くような気持ちのことを。
そして、ムカムカ沸いてくるこの気持ちのことをーー、、
そこへ勢いよくドアが開けられた。
この部屋とは今は不釣り合いなほどウキウキした足取りでアユールが入ってきた。
「ハルさま、明日のドレスが届けられましたよ!」
喜びに満ちた声で、待ち切れないように主人を探す。
アユールは何も知らされていない。
ハルが明日にはここから居なくなることなど、聞かされていない。それはアユールに知らせると式どころではなくなるだろうと推測できるからなのだが。
だが、花嫁本人はこんなに塞いでいるのに式の準備だ、婚礼のドレスやヴェールの打ち合わせだとアユールはノリノリでハルを連れ回していた。
悲鳴があがった。
「まぁ、大変!」
「どうしたんだい?アユール?」
ガインとユンハが表情を引き締めぱっと寄ってきた。
「花嫁様のブーケがもう届けられてしまったのよ!」
「それが?式は明日だ、どうしてそれがいけないんだい?」
「いけないわよ、ブーケのリボンの色を最終的にどちらにするか今日の夕方までに決めて伝えるとあんなに言っておいたのに!
まだ決まっていなかったのに!」
「ではすぐに連絡してーー」
ユンハは額に手を当てた。
「そうよ!」
ガタ!と勢いよく椅子が鳴った。
「ハル様、いかがされましたか?」
「リボンのお色のことですわね?」
アユールは手を拳にして、色味の変更を訴えに行くつもりだ。
「そう、、まだ、決まってないのよ!」
ハルはぐっと顔をあげた。
「何がです?」
「っ、!ハルさま?
ハルさま?!」
驚くガインもユンハも、アユールも置いて、
ハルは部屋を飛び出していた。
階下からコウジュンの声がしている。
帰ってきた!
コウジュンに向けて、ハルは駆け出していた。