嘘つきな恋人
玄関の壁に押し付け思い切りくちづけする。
柔らかい唇から、甘い声が漏れる。

彼女が嫌がらずに大人しくくちづけされているので、

そのまま抱いてしまいたかったけど、シャワーを浴びるか一応聞くことにする。

どちらにしても、俺に抱かれることに、変わりはないが、

少し優しくしてあげたくなった。

部屋を暗くして、ウィスキーをストレートで口にしながら彼女を待つ。

きっと彼女は自分を傷つけても、恋人と別れたいだけだ。

知らない男に抱かれることで、恋人の元に2度と戻れなくなりたいと思っているのだ。

俺は彼女の気持ちを利用するけど、

この状況をちっとも面白がってはいない。


ガソリンのようにウィスキーを胃の中に放り込見ながら

なんで好きになりそうなオンナをこんな風に抱かないといけないんだろう。

今の俺はただの通りすがりで、BARで隣に座っただけの男だよなぁ。

と腹がたつ。もう少し上手く出会いたかった。

でも、彼女をくだらない浮気男から自由にしたい。


やれやれ。



明日の俺は彼女にただ恋をしている男になってしまう気がしている。


彼女の涙をどうにかして止めて、
笑った顔を見たいと苦しいくらいに望んでいる自分に気付いているから。


パタンとバスルームのドアが開く音がした。

「コッチだよ。」と自然に優しい声が出ている自分がいる。




チャンスは逃さない。

俺の存在を彼女の心に刻む。

必ず浮気男と別れさせて、

涙を止めてやる。


そう誓ってリビングの入り口に立ち止まったままの美鈴を迎えに行った。


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