嘘つきな恋人
大人しく個室で、前菜を頼んで炭酸水を飲んでいた剛は私の顔を見ると、
ホッとした顔を見せたけど、

さくらさんも席に座ると大きなため息をついた。

「久しぶり。後藤先生。
会うのはこういう時ばかりなのが残念だけど…」とさくらさんが嫌味を言うと、

「さくらちゃんは相変わらず、キツイな。」と剛はかおをしかめた。
あの病院にいたさくらさんはもちろん、剛とも面識がある。

「私は別に口を出すつもりはないけど、
きちんと話し合えるといいと思ってる。」

とさくらさんは私に柔らかく微笑みかけてくれたので、

私も微笑みかえしてから、剛の顔を見つめた。


剛は私に向き直り、

「俺は別れたくない。」

「都合がいいことを言わないで…」

「美鈴と会えない時に俺は他の女を見ちゃうんだって思う。
毎日一緒にいれば、そんな事にならないよ。
取り敢えず、同棲しよう、それで、両親に挨拶を済ませて婚約者になって、
来年には結婚しないか?」

…初めて結婚って口にしたのが
こんな時だなんて…ずるいよ。

さくらさんが呆れた顔を見せているのがわかる。

「結婚しても、私がいない時に女の人に会うでしょう?」

「俺は美鈴に家庭に入って欲しいな。
そうすれば毎日、一緒で、
俺は他の女に会う暇もなくなるよ。
美鈴は子どもも好きだから、子どもを2.3人も持てば良いよ。
楽しい賑やかな家庭。悪くないだろ。」

と剛は私が漠然と思い描いていた未来をそのまま口にしている。

私がなんと返事をしたらいいかわからずに
黙っていると、



「で、美鈴が家にいるって安心すると、
また、そいつは浮気するんじゃないか?
はい、美鈴スペシャル。」

と個室の入り口に立ったのは三島さんだ。

ニッコリと王子の微笑みを見せている。

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