嘘つきな恋人
笑いながら私達は食事をし、

「あそこの院長になるの?今の院長にかなり気に入られてるでしょ。」
とすっかり眠ってしまった波瑠ちゃんを専用に店に用意されている移動式のベッドに寝せながら芦沢先生が裕人さんに聞く。


「まあ、将来のオススメはされてるけど、一応もう1年経ったら、大学病院に戻る予定です。」と裕人さんは返事をしていて、

「え?引っ越すの?」と私が思わず言うと、

「まだ、戻るって決めてないよ。
大学にいた頃は次から次に手術に付いてて…やり甲斐はあったけど…
人に向き合ってこなかったなって
3年前にここに来て思った。
本当は去年戻る予定だったんだけど、
あと2年残らないかって院長に言われて、残ることにしたんだ。
ここでの仕事は痛みのコントロールが主な仕事だけど…
麻酔医としてこれもじぶんに出来る、大切な仕事だって思ってる。
ひとりひとりに向き合うって俺たちの仕事じゃ、とても大事な基本だよね。
ここの仕事もやりがいを感じているんだよ。
穏やかでのんびりしたこの場所も、ここに住む人達も
俺にとっては大切になって来てるんだ。
ここにずっと住むことも考えたい。
リンはどうしたい?」と私の顔を見る。

「…裕人さんの隣にいたい。
裕人さんと一緒なら、きっとどこでも楽しい。
えーと、月並みだけど、暖かい家庭を持ちたい。
家族に行ってらっしゃいやおかえりなさいを毎日笑顔で言いたい。っていうのが
…私の夢です。」と真面目に答えた。

共働きの両親に育てられた、ひとりっ子だった私の夢。
家に帰ったら、お帰りなさいって言ってくれるお母さんがいる暖かい家庭。

「それって俺にも言ってくれるんだよね。
嬉しいな。
毎日一緒に起きて、一緒に眠る。
まあ、俺が当直の時はしょうがないけど…
美鈴の夜勤がなくなったら、もっとたくさん一緒に居られるよね。」

と裕人さんは微笑んで、私の頬を撫でる
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