【完】こちら王宮学園ロイヤル部
そう、怒ってる。
わたしが彼と付き合っていたのは半年だけ。「留学するから別れて欲しい」と言ったわたしに、夕陽は何度もそんな理由じゃ納得できないと言い続けた。
それでも、わたしが押し切って別れて、留学したのに。
こうやって今ここにいることも、向こうに行く際に連絡先もすべて変えたことも、怒ってるんだと思う。
「……夕陽が芸名で使ってる『NANA』は、
あいつがお前からとった名前なのか?」
いつみ先輩にそう問われて、「どうでしょうね」と曖昧に笑うことしかできなかった。
元から芸能事務所に入っているのは知っていたけど、まさか日本に帰ってきたら元カレが『NANA』って名前でデビューしてるなんて思わないし。
さっき見せてもらった、みさと宛の封筒。
あれは夕陽が、自分のグループのファンであるみさとにチケットを渡して、それと引き換えにわたしに連絡先を渡せという意味で送ったものだろう。
「ちょ、っ……本気?夕陽」
そうこうしているうちに、出ていったふたりがもどってくる。
どこか慌てている呉羽くんとは裏腹に、夕陽は落ち着いた様子で「ナナ」とわたしを呼んだ。
「葛城先輩に連絡先渡してある」
「……今日受け取った」
「……そ。じゃあ連絡して、絶対」
「嫌よ。終わった話を掘り返さないで」
冷たく突き返せば、夕陽はため息をつく。
テレビの中で見ていたから彼が成長したのは当然知っていたけれど、昔よりも断然かっこよくなった。……相変わらず可愛げがないけど。
「終わったんじゃなくて、
ナナが勝手に終わらせた、のまちがい」
的確にそう言われてしまえば、思わず眉間が寄る。
髪へと伸びてきた手を払ったのも束の間、彼は自分自身の手を払ったわたしの手を掴み、顔を寄せた。