【完】こちら王宮学園ロイヤル部
・瑠璃と翡翠に濡れる羽
◆
俺が生まれた時、そばには父親と母親がいて。
ごく普通の、何の変哲もない3人家族だった。父さんは社員を100人ほど抱える会社の経営者で、特別裕福な暮らしではなかったけど、そこそこの暮らしをさせてもらっていたと思う。
──違う。
ごく普通の3人家族は、架空にしか過ぎなかった。
それを知ったのは、10年前。
俺がピカピカの黒いランドセルを買ってもらって、小学生になる、その直前のことだった。
「椛。話があるんだ」
困った顔をした母さんと、優しい表情を浮かべた父さん。
父さんがそんな改まった言い方をするのはめずらしくて、幼い俺にも真剣な話だってことは伝わってきた。
「はなし?」
この頃、俺たちが住んでいたのは小さなアパート。
父さんは仕事で帰ってこないことも多くて、ほぼ母さんと二人暮らし。だけど会えば目一杯遊んでくれる父さんのことが好きだった。
「そう、話。
まずひとつめ、広い一軒家に引っ越します。一軒家ってわかる?こんな風につながった建物じゃなくて、屋根のあるお家だよ」
幼稚園のともだちのあの子は一軒家に住んでるよね、と。
遊びに行ったことのある家の話を用いることで、大方"一軒家"がどんなものか想像のついた俺の瞳は、おそらくキラキラと輝いていたことだろう。
「しかもなんと、3階建てです」
「おおっ……!」
「ふふ、いいリアクションしてくれてありがとう。
そしてもうひとつ。椛に、弟ができます」
弟。弟、弟、おとうと……、弟?
「……弟!?」