【完】こちら王宮学園ロイヤル部
「はい?」
どうしたんですか?の意味を込めて、彼を見る。
質問には答えずに、ゆったりとした足取りでわたしの元へと近寄ってきた彼は。何をするのかと思えば優しくわたしの髪を撫でたあと、首をかしげた。
「リップクリーム。持ってるか?」
「え?リップですか?
はい、乾燥するので持ってますけど……」
ポケットを探って、いつも使っているリップクリームを手のひらに乗せて差し出す。
そうすれば彼はそれを手に取り、キャップを外した。使う目的といえば、当然くちびるに塗る、のだけれど。
「……!?」
なぜか。
なぜか彼は、それをわたしのくちびるに軽く塗る。
それからリップクリームを塗ったばかりのわたしのくちびるを、指でつっとなぞって。
真っ赤になったまま動けないわたしに、不敵な笑みを見せたかと思うと。
「13時になったら、受付まで迎えに行く」
「っ、」
「一緒に回るんだろ? ……返事は?」
深い声色で催促してくる。それに震える声で「はい」と返事すれば、手のひらにリップクリームを返してくれる先輩の。
「じゃああとでな」という言葉に背中を押されるようにして、リビングをいそいそと逃げ出したけれど。
っ、本当に何がしたいんだあの人……!
いや、わたしのこと好きでいてくれてるのは知ってるけど……!それにしても甘すぎでしょ……!
わたしのことどうしたいの!?と。
おかげで脳内が先輩のことでいっぱいになってしまったのは、言うまでもないと思う。