【完】こちら王宮学園ロイヤル部
C棟にもどる道すがら。
先輩を引き止めると、彼は「どうした?」と聞いてくれる。その優しい表情も声も、好きだ。
「……あ、の」
つないだ手を、自分の方へと引く。
そうすることで彼の意識を引きつけたのまではよかったけれど、思ったことを口にするのが怖くて言えなくて、口をつぐんでしまう。
好きとは言えない。
だけど、まだ、いっしょにいたい。
夕帆先輩たちに、休憩に行ってもらわなきゃいけないのに。
……おねがいだから、離さないで。
「なあ。
……俺に都合の良いこと、してもいいか?」
人気のない場所に、ふたりきり。
まわりは騒がしいのに。透明なガラスで隔てて切り離されたかのように、静かな空間の中で。
「……南々瀬」
つないでいない方の手が、頰に触れる。
それから親指でくちびるをなぞられると、リビングでの出来事が脳裏に鮮明に浮かんで。否応無しに熱を持つ頰に、先輩が目を細めた後。
「……嫌なら、拒めよ」
──距離が、近づく。
つないだだけの手。お互い求めるように指を絡めたのは無意識だったけれど、絡んだ指の隙間で共有した熱が、燻るように熱い。
「先、輩……」
空いた手で、先輩の服をぎゅっ…とつかむ。
それからさらに縮まる距離に、まぶたを伏せる。
好きなんて言えないくせに独占したい気持ちだけが大きくなって、キスは受け入れるなんて、ダメに決まってるのに。
はじめて触れたあの日の夜よりも随分と、遠慮がちなキスに。好きな気持ちと鼓動だけが、大きさを増した。