【完】こちら王宮学園ロイヤル部
以前から、決めていたこと。
きっと彼は、また黙ってここを離れるわたしに対して、怒るだろうから。王学の芸能科に進むと言ってくれたのに、また彼を傷つけてしまうから。
「一度ゆっくり話したいことがあるの」
夕陽にだけは、伝えていこうと決めていた。
どうしてわたしが、留学を理由にして別れを選んだのか。そこにあった、事実。本当なら誰にも話せないのだけれど、夕陽にだけは伝えていく。
傷つけてしまった、せめてもの償いだった。
……そんなもの、夕陽が望んでいるわけじゃないことも、もちろん理解しているけれど。
「……いい、けど」
ちら、と夕陽が困ったように視線を泳がせる。
その泳がせた視線を誰かと合わせようとして、だけど結局やめたみたいに。わたしを見据えて、「告白じゃないでしょ?」と口元に笑みを浮かべた。
揶揄うわけではなくて。
ただただ、穏やかで優しい笑み。
「……ええ、残念ながら」
「じゃあややこしい言い方しないでよ。
誰かさんたちが今ソワソワしてたよ」
くすくす笑って。
それから「まだ先ね」と確認するように口に出す夕陽。彼に伝えるのは、旅立つ直前でいい。
「花火終わっちゃうから、ちゃんと見てなよ。
あ、椛おかわりちょうだい。お腹空いた」
「お前ほんとわがままだよねえ。
まあ、それを許してる俺らも相当甘やかしてやってんだろうけどさ〜」
夕陽がわたしのそばを離れると、何気なく視界に入ったのはいつみ先輩。
……いや、ちがう。"何気なく"では、ないけれど。
「いつみ先輩。ちゃんと食べてます?」