【完】こちら王宮学園ロイヤル部
「姫川 南々瀬(ひめかわ ななせ)です」
何の特徴もなく、ただ名前を言っただけ。
けれど教室の空気は水面に水滴を落としたかのように波打って、淡く揺らいだ。
「姫川さんの席は、」
廊下側の、いちばん後ろ。
そこしか空いていないから、はじめからその席だということはわかっていたけれど。
指定されたと同時に足を動かして席に向かえば、「南々瀬」とその前の席の男子に、優しく名前を呼ばれる。
これが初対面なら正直びっくりなところだが、当然そういうわけではないので。
「この席割り、もしかしてわざと?」
席に座ってから、振り返った彼に尋ねてみる。
そうすれば「そーだよ」と一言。でしょうね。
「なんだよ大和(やまと)、お前知り合いなの?」
「んー。中学一緒だったからな」
「あー、なるほど」
教室の中で、飛び交う声。
先に大事な話は済ませてあったのか、担任の先生は「ちゃんと授業受けてくださいね」の一言だけを告げて、あっさり教室を出て行った。
大和のまわりに集まってきた男の子たちが話しかけてくれるのだけれど、どうにも居た堪れない。
下手に口を開くこともできずに身を硬くしていたら、真横の扉がいきなりガラッと大胆な音を立てて開いた。
「っ、」
その音の大きさに動揺する間も無く、いきなりぎゅっと抱き着かれて。
鼻腔をくすぐる甘い香りに、ようやく状況を理解する。