【完】こちら王宮学園ロイヤル部
昔から、そうやって気を遣うのが当たり前だった。
些細なことに気を配っていなければ、大事なものはあっさりと手の隙間から抜けていってしまうのだと知ったから。どんなことも、見逃したくなくて。
「百歩譲って、いっちゃんには気遣えるけど~。
たとえ千歩譲っても夕さんには遣えねえよな」
「わかった、殺す」
「……お前間違っても、
南々瀬の前でその声出すんじゃねえぞ」
「だいじょーぶ。
あの子が気づくまであたし女ってことにしとくから」
……それはどうかと思いますけど。
夕さん、たまに素で会話してることがあるし。察しが良ければ気づくかもしれないけど、女子生徒の制服を着てる人を見て男だと疑う人は少ないだろう。
女の人でも、声の低い人はいる。
……というか、もしバレたら特殊な性癖でも持ってるんじゃないかって勘違いされると思うんですけど。
「っていうか莉央くーん?
あんたいつもはうるさいのに、南々瀬ちゃんがいる時はなんで全然喋んないの?嫌いなの?」
「ま~ま~。
夕さん、莉央くんはピュアなツンデレボーイなんだよ~。女の子と喋りたいけど喋れねえの」
「あらあら、そうだったの?」
「違ぇよ勝手に捏造してんじゃねーよ」
……面倒な人たちだな。
さっきまで言い合ってたくせに、今度は仲良く莉央さんを揶揄うふたり。いつみ先輩が既に我関せずな理由がよくわかる。巻き込まれると面倒だからだ。
俺も巻き込まれたくないな、と新たにチョコをひとつ取って、金紙をめくっていれば。
コンコンとノックの音が聞こえて、一度室内の音がぴたりと止まる。そして。
「お邪魔しまーっす」