【完】こちら王宮学園ロイヤル部
近頃いつみが珠王のネットワークを使って何かしら調べていたことは知っていたけれど。
そこまで嗅ぎつけられたならもう仕方ない。
「あの子は。
……この国の未来のために人質にされたの」
わたしと同じ、漆黒の瞳。
──巨大な医療組織の、跡継ぎ。
「彼女の両親は、いつみも知る通りバイオテクノロジーの研究者よ。かなり有能なね。
世界的に評価されて、賞を取ってもおかしくない」
それなのに、知られていない理由。
それはただひとつだけだった。
「……15年前。
政府がとある計画を、持ちかけた」
その相手は、彼女の両親。
つまり姫川夫妻。そして、珠王、八王子。
「いつみと彼女が出会った14年前のパーティー。
あれは正式にはセレモニーよ。『最先端技術を駆使したバイオ実験』って名前のセレモニー」
わずかにいつみの瞳が動揺で揺らぐ。
表情に出にくいいつみの感情をわたしが読み取れるのは当然だ。だって姉なんだもの。
「この国の、"万が一"を考えて。
政府は、バイオテクノロジーを用いた兵器を秘密裏につくろうとした」
「、」
「その研究者に選ばれたのが、姫川夫妻。
元々姫川夫妻は珠王の実験棟で働く有能な人材よ。当然ながらその計画は呑もうとしなかった」
命を救う側の技術を開発するために研究してきた姫川夫妻。
たとえ万が一の政策だろうと、命を奪う側の研究なんてお断りだろう。誰だってそう言う。
だけど。
どうしてもふたりが断れない理由があった。