【完】こちら王宮学園ロイヤル部



やわらかな手触りの髪をそっと撫でる。

以前と変わらないそれに目を細めた彼は、「よかったね」と柔和な言葉でわたしたちの関係を祝ってくれた。



「さて、じゃああたしは勉強にもどるわ」



「あ、はい。勉強、頑張ってください」



ひらりと手を振った夕帆先輩が先に立ち去り、それを見送ってわたしも「またね」とみんなに手を振る。

またも急ぎ足で廊下を進み外に出ると、いつみ先輩は自然にわたしのバッグを受け取り、手をつないでくれた。



「バッグくらい自分で持てるのに……」



「いいから甘えてろ」



今日は始業式だけだから、特に重くなるようなものは入っていない。甘えるほどでもないのに、とは思いつつも。

きっと返してくれないんだろうなと、素直に甘えることにした。




「……先輩」



「ん? どした?」



解決したように見えて、まだ解決していないこともある。

言わないだけで、珠王も八王子も、わたしたち家族の影響で何らかのダメージを負ったはずだ。15年続けた計画を、あっさり切れるとは思わない。



それでもこの人がわたしの手を離さないでいてくれるのなら。

わたしはただ、それに応えるだけでいい。



「いつみ先輩と、夕帆先輩が合格したら。

みんなでどこか行けたらいいなぁって」



わたしの提案を噛み砕くように一瞬黙った先輩は、すぐに「そうだな」と言ってくれる。

夏休みは八王子邸にお邪魔したりご褒美旅行に行ったりはしたけど、先輩ふたりが卒業してしまえばその機会も確実に減ってしまう。



それなら。

時間は引き止められなくとも、せめて形に残る様にしておきたい。



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