【完】こちら王宮学園ロイヤル部
「……、」
夕帆先輩と、付き合うことになってから。
夕陽は一向に、連絡をくれなくなった。
電話で、『ありえなさすぎ』と本気で蔑んでいるのがわかる声色で言われたのが最後だ。
……言いたいことは、よくわかる。
わたしだって、もしお姉ちゃんがいたとして。
元カレ、いや、今も好きな人がいきなりお姉ちゃんと付き合いだしたら、絶対傷つく。
それは、わかってる。
だからわかってもらおうなんて甘いことは、思ってはいない。
自分の黒髪を、ドライヤーでしばらく乾かす。
ぼうっとしながら乾かしていたせいか、途中で夕帆先輩が出てきたことに気づかなくて。
カチッとスイッチをオフにしたところで振り返り、漏れそうになったおどろきの声を飲み込んだ。
……声掛けてくれればいいのに。
「夕帆先輩、髪乾かします?」
「いや、すぐ乾くからいい」
そんなやり取りを行い、ドライヤーを片付ける。
洗面所からリビングにもどれば、先輩がすっと視線を持ち上げてわたしを見た。ブルーのそれを見慣れてしまっているから、やけに落ち着かない。
「南々瀬」
普段の声とは比べ物にならないくらい低い、先輩の声。
それが彼の地声だってことは知っているけれど、ひどく心臓を揺さぶられるから困る。
「こっち来い」
普段は"南々瀬ちゃん"のくせに、ふたりきりになると呼び捨てするのはわざと。
普段なら「こっちおいで?」って誘うくせに、ふたりきりになれば命令口調なのも、わざと。