【完】こちら王宮学園ロイヤル部
普段はあんなにも、自由なのに。
大事なときはぜったいに、目をそらしてくれない。
はずれた例えをするのなら、金魚すくいみたいだ。
ゆらゆらと水の中で光を反射して泳ぐ金魚。なのに捕らえられそうになったらすばやく身を躱して逃げる様は、自分を"つかませない"ルアと同じ。
「、」
何も言えなくなっていれば、距離が近づく。
目を閉じた先でくちびるにそっと落とされたキスの感触はただただ優しくて。まるでルアそのものを表したような、それに。
泣きそうだった。
「……南々瀬は、いっしょにいるとき。とくに、付き合ってからかな。
いつも、泣きそうな顔してるね」
シャツをつかむ指先に力がこもる。
不恰好に揺さぶられた、心の中。
「愛しい、から」
「………」
「愛しいのに……上手く、いかないから、」
ブラウンがかったグレーの瞳。
彼が守ろうとした兄と反転した色合い。
「だから……泣きそうなの」
言った瞬間、ぎゅっとだきすくめられた。
彼がいつもみたいに甘えてくるような抱きつき方でも、抱きしめるわけでもなくて。
不器用な、彼からの抱擁。
抱きしめてあげることが多いから、こんなふうに彼の腕に添うのは、なんだか珍しい。