【完】こちら王宮学園ロイヤル部
◆
ぴんぽーん、と。
ふたつの表札が並ぶ綺麗な三階建ての家のチャイムを鳴らす。と、『ちょい待ってて~』とゆるい彼の声で応答があった後、すこししてドアが開いた。
「いらっしゃい南々ちゃん」
春休み中にオレンジベージュからマットブラウンに染められた彼の髪。
それでも毛先にはグラデーションでその色が残っているけれど。
「おじゃまします。
誰もいないって聞いたけどさすがに手ぶらで行けないから、これ。いっしょに食べようと思って」
なんだか大人っぽくなった彼を直視出来なくて困る。
視線を逸らすようにしてずいっと渡したのは、白い紙箱。『Juliet』のロゴが入ったそれの中身は、言わずもがなふたり分のケーキだ。
「気ぃ使って欲しくねえからいいって言ったのに~。
まあいいや。俺もケーキ好きだし、あとでいっしょに食おう」
椛のお父さんと、ふたりのお母さん。
そして呉羽くんと双子ちゃんのみんなは、いま春休みの旅行に出掛けている。
本当は、椛もいっしょに行く予定だったらしいのだけれど。
春休みにロイヤル部で集まるという話が出ていたため、行かなかった。
……べつに、椛がいない時に集まるなんて、そんな嫌味なこと誰もしないし。
事実今日は集まることもなく、その椛のお家にお邪魔しているほど。
「椛、ほんとに一緒に行かなくてよかったの?」
綺麗な家の中。
仕切りを使って部屋を作ることができるらしい3階は3つ部屋があって、椛の部屋、呉羽くんの部屋、双子ちゃんの部屋になっていた。
ちなみに、"瑠璃と翡翠が大きくなったらその部屋も区切ってぜんぶで4部屋にする"、らしい。
わたしは一人っ子だから、そうやってちょっと嬉しそうに弟妹たちの話をする椛のこと、好きだけど。
面と向かってそれを言う勇気はないため、
さりげなく違う話題を引っ張り出してくる。
「別にいいんだよ~。
最近こっちで生活してるし一緒にいる時間増えたからねえ。……むしろ、」