【完】こちら王宮学園ロイヤル部



「ほんと、らしくねえな……」



椛のやわらかい髪が、首筋に触れる。

すこし経って「作ろっか」と困ったような笑みでわたしを解放してくれるけど、胸が詰まって仕方ない。



「……うん」



小さく返事して、今度こそ気を取り直して調理を開始する。

椛は突発的にこうやって触れてきたりするけれど、嫌がることは絶対にしない。だけど底抜けに甘く溺愛してくれていることに、わたし自身が自覚できるほど愛情をくれていた。



「お米洗って水切りしてあるから。

玉ねぎと人参、みじん切りにしてくれる?」



そして気を取り直せば主夫力がさすがすぎる。

え、お米の水切りまでやってくれたの?早くない?



っていうか野菜を切るみたいに簡単に終わらないものは、揃える段階までぜんぶやってくれてるし。

手際の良さを見て、ほんとにこの人と結婚できたらいいなあと不純なことを思ってしまった。




「困ったことあったら、声掛けて」



そう言って彼はメインの準備に取り掛かる。

ふたりで準備している間、交わすのは特に他愛もない話ばかりだ。世間の恋人たちはそこかしこで甘々なムードを保っているわけではない。



「あ、さっきの『Juliet』のケーキ新商品なんだって。

ほうじ茶のケーキらしくて、気になって買っちゃったの」



「ふは……

南々ちゃん、相変わらず新商品やら限定やらの謳い文句に弱すぎじゃねえの。元々は何買いに行ったんだよ~」



「レアチーズケーキ」



「ぜんぜん方向性違うな」



自分でもそう思う。

レアチーズケーキを買いに行って、途中でチーズスフレと悩んで、結局買ったのはほうじ茶のケーキ。本当に謳い文句に弱すぎる。



< 607 / 655 >

この作品をシェア

pagetop