【完】こちら王宮学園ロイヤル部
あくまで噂だが、本来なら厳しい入試を受けて入るはずの王宮学園、通称王学。
けれど彼女は、両親のたった一言でここへ転校すると決めた。おそらく両親は相当な権力を持ってる。じゃねえと、ありえない話。
「秘密って、とんでもねえ毒薬だと思わねえ?」
「………」
「人間は隠されたら知りたくなる生き物で。
「秘密」ってたった一言が、たとえハニートラップだったとしても足を入れたくなるんだよ」
甘美な響きを持つくせに、とんでもない毒薬。
一度足を滑らせたら最後、引き返せねえ場合だってあるのに。今のいっちゃんはその不安定なところにいて、たぶんこいつはそれが気が気じゃない。
「本気で引き止めてえなら、今しかねえよ?」
どうせそんなことは微塵も思ってねえんだろうけど。
ふっと自嘲に似た笑みを落としたところでリビングの扉が開いて、何事もなかったかのように莉央から離れた。
「おかえり、遅かったじゃねえの。
もしかしてふたりでイチャイチャしてた〜?」
「ものすごくつまらない冗談ね」
「ふは、言うねえ」
キッチンに足を踏み入れる俺の後ろから、昼飯の話をする王様と姫の声が聞こえて来る。
いまから莉央の朝食つくんのに昼飯って。……ああでも、ものによっては買い出し行かねえと作れねえし。
「今日の昼飯の希望は〜?」
卵液に浸しておいた食パンを、バターをひいたフライパンに乗せて。
焼ける音にかき消されないよう大きめの声で尋ねたら、返ってくるのは夕さんの「和食ー」という返事。ざっくりしすぎだろ。
「姫、和食でなんか希望ある?」