【完】こちら王宮学園ロイヤル部



「恥ずい、けど……

でももう、離したくないんだから分かってよ」



「……夕陽」



「俺から離れていかないで。

……ちゃんと、ずっと俺のそばにいて」



役でもない限りそんな甘いこと言ってくれなさそうなのに。

わたしの前では、役でも言わないような甘い言葉の羅列をさらさらと口にする。



ぜったい恥ずかしいはずなのに。

それ以上に、大事にしようと思ってくれてる。──わたしがここに帰ってくる、ずっと前から。



「……そばにいるから」



はっきりそう返せば、彼は満足そうに目を細めた。

そして次の瞬間にはぐらっと視界が傾いて、目の前には夕陽。その後ろに見えるのは天井。




「……ちょっと待って、

夕陽のお母様帰ってくるんでしょう?」



「らしいね。

どっか出かけて帰ってくるらしいけど、女一人で回れる時間って限界あるし」



「ならこれはまずいってば……っ」



途中でお母様が帰ってきたらどうするの……!

たとえ帰ってこないとしても落ち着かないのに、もしかしたら途中で帰ってくるかもしれないスリルに勝つほどの勇気がない。



だめだめと首を横に振るわたしに、何度もキスを落とす彼。

そんなのでも絆されないわよと、半ば挑むように彼をじっと見上げていれば。



「……母さんなら、しばらく帰ってこないよ」



なんだか疲れたように、夕陽がそう言う。

なぜかその最中も、色気はだだ漏れ。



< 632 / 655 >

この作品をシェア

pagetop